第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
「やめて!ねえお願い、だめ!やめてよっ……いや、やだあ!」
私の声なんて聞こえていないみたいに無視される。
今まで一度だって私に無体を働いたことなんてなかったのに。
いつだって私の気持ちを一番に考えてくれていたのに。
人よりよく利くその鼻で私の事を私より理解してくれていたのに。
なのに、どうして分かってくれないの。
「やめ…………っ、やめて!お父さんッ!!」
その言葉に、炭治郎の体が強張ったのがわかった。その一瞬を見逃さず力一杯体を押し退けて距離を取る。
よろけた体を立て直した炭治郎の顔は俯いたままでよく見えない。でもとても恐ろしい。だけど、ここで怯んではいられない。
「…………華、」
「どうしてこんな事するの!?私たち今は親子なんだよ!?」
「君を娘だと思った事は一度も無い!!」
瞬間、鈍器で頭を思い切り殴られたような感覚に襲われる。
やめてよ、そんな事、言わないでよ。
そんなの分かってるんだよ。私を見る炭治郎が父親の目をしたことなんて、一度もなかった。
だけど、お願いだからそんな事、口には出さないでいてほしかった。
そんな言葉、今の私には絶望以外の何でもないよ。どうして私の努力を踏みにじるようなことを言うの。
縋るように私に手を伸ばしてくる炭治郎。
息をするのでいっぱいいっぱいになった私はその手を振り払う気にもなれなかった。
「好きだ…愛してる。ずっと君のことが好きなんだ…。頼むから、拒まないでくれ。俺はもう、……っもう二度と、君を失いたくないんだ…!だから俺から逃げないで、離れないでくれ。華のことだけが愛おしくて仕方ないんだ…!」
震える声で、手で、私を抱き締める炭治郎の体はとても熱かった。
力一杯抱きしめ返したい。
この背中に腕を回してぬくもりを感じたい。
この人に愛されたい。
この人を愛したい。
この人を自分だけのものにしたい。
でも、どう足掻いたってそれは、今の私達には許されないんだよ。
落ち着いて一つ深呼吸をして、炭治郎に向き合う。
「……私だって、炭治郎を父親だなんて思った事は一度もないよ」
「なら…!」
「もちろんあの人の事も母親だと思えた事はない」
「っ……」
炭治郎が身動ぐ。