第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
「別に普通だよ。勉強も間に合ってるし、友達とも仲良いよ」
「それはよかった」
「そうだ、今度の休みに映画に行く約束もしたから行ってくるね」
「そうか。クラスの子か?」
「うん」
「女の子だよな?」
「なんでそんな事聞くの?」
「先に聞いてるのは俺の方だぞ。一緒に映画に行くのは、女の子だよな?」
炭治郎は優しく笑ってる。でも纏う空気が怖い。
やめてほしい。わざわざそんなこと聞かないでほしい。
(あ、でも、父親は娘に悪い虫がつかないか気にかけるものだよね)
そう考えると関係あるのかな。それが普通なのかな。
そうだよね、炭治郎も父親になろうとしてるのかも。
だって今までこんな話してきたことないもんね。大丈夫だよ、私も頑張るから、一緒に頑張ろう。
「ううん、男子だけど」
「…………そうか」
笑顔は崩さないまま、こちらに伸ばされる炭治郎の手。
あ……キスされる。
そう理解した瞬間、気付けばその手を払い除けていた。目を見開いて固まる炭治郎を嗜めるように、目を合わせないまま語気を強める。
これは、駄目だ。
「話はそれだけ?ならもう寝たいから、...出て行って」
危ない。危なかった。このままじゃ駄目だ。昨日まで平気だったのに、今日はもう駄目だ。
私まで完全に駄目になりきってしまう前に部屋から追い出してしまおうと炭治郎の体を押すと、その腕をとられてベッドに縫い付けられた。
そのまま顔を近付けて来るのがわかって反射的に思い切り顔を逸らすと、首筋にぬるりと生暖かい感触が当たる。
「やっ、やだ!!」
大人の男の人の強い力で押さえ付けられて抵抗らしい抵抗もさせてもらえず炭治郎の唇や舌が好き勝手に触れて来る。
押し返してもビクともしない。昔みたいに体を鍛えていればよかったと後悔する。
私の体は愛しい人に触れてもらえた喜びで浅ましく熱を持ち始めるけれど、もうどうしたって理性が彼を受け付けない。
受け入れてはいけない。
やめてほしい、嬉しい、離して、もっと触って、駄目、駄目じゃない、許されない、許されたい、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、
もう……この苦しみから、解放してほしい。