第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
俺の華なのに。
やっと取り戻した、俺だけの華なのに。
どうして、どうして、
彼女とあの頃と変わらない距離感でいられる善逸が羨ましい。
彼女と一緒に歳を重ねられる伊之助が羨ましい。
ふたりに限らず、彼女と血の繋がりを持たないすべての人が羨ましい。
彼女と結ばれる事を咎められない人全員嫉ましい。
彼女に笑いかけられるすべての生き物が妬ましい。
だけど、この状況を作ったのは俺自身だろう?
そうだ。俺が全部悪い。俺のせいだろう。他人を妬むのは筋違いだ。
だけど、彼女は、華は、俺の華なのに。
ああ……
頭が、痛い。
どうしてこんなことに。
どうしてこんな思いをしなければいけないんだ。
もどかしい。煩わしい。何もかも、全部。
俺はただ、華を愛したいだけなのに。
何故こんな形で再会してしまったんだろう。
こんなに近くに居るのに触れられないなんて。
こんなに焦がれているのに愛を伝えられないなんて。
こんなに愛しているのに結ばれてはいけないなんて。
もう何度そう思ったかわからない。
そう思わない日はない。
数え切れない程繰り返した世界への恨み言を、今日も心の奥深くに閉じ込めた。
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実はあれから、時間が経って、禰豆子とも再開した。
禰豆子はわたしの学校の教育研究性として来ていて、私の顔を見た途端泣き出しそうな顔になった。
私自身もすごくすごく嬉しくて、衝動的に炭治郎に伝えたんだっけ。
そうしたら今度は善逸と炭治郎と私と禰豆子で会おうという話になって、ついこの前会った。
3人はそれはもう、泣いて、笑って、大忙しだった。
炭治郎は大きくなった妹の姿に感動していたし、善逸はあの頃と変わらず可愛いよ、綺麗だよって言い続けているし、
禰豆子ちゃんはそんなふたりを見てむず痒そうに笑っていた。
大好きな人達がこうして笑っている姿を見るのは嬉しい。
私も心から笑えたらよかったのに。
嬉し涙さえ出なくなってしまった私は、3人から一歩下がった位置で佇むことしかできなかった。