第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
華の入学式が終わり、俺はリビングのソファで寛いでいた。でも華は俺か妻が呼びに行くまで部屋にこもってしまうんだろう。ずっとそうして避けられている。
やはり華に避けられるのは悲しいし、正直辛い。
だけど今日は違った。
俺が座っているソファの、反対側に座った。この15年間華が自分から俺の近くに腰を下ろすなんてことはなかったのに。
今すぐ抱きしめたい。けど、しない。
華の匂いは俺に心を許していないままだから。
「……あのさ、」
「うん?」
「今日、伊之助に会ったよ」
「え!?」
「同じクラスで、隣の席。元気そうにしてた」
「…そうか、伊之助も居たのか…そうか…よかった」
ああ、駄目だ。歳をとって随分涙腺が緩くなってしまった。伊之助も、俺にとって初めての大切な友人だから。まさか華と同い年だとは思わなかったけれど。
「でも何も覚えてないみたい。」
「……そうか。それでも、こうしてまた会えてよかったよ」
「うん……連絡先交換したから、今度うちに連れてくる。善逸も呼ぶよ。」
「ああ、ありがとう」
「……じゃあ部屋に戻る」
最後まで視線は合わずそそくさと部屋に戻っていってしまう。それでも、話せたことが嬉しかった。
華が部屋に戻ると、スマホが鳴った。見てみると、華が新しくグループを作ったらしい。メンバーは華と、俺と、善逸の3人だけだ。
〔 伊之助に会った。記憶は無いみたいだけど、今度みんなで会おう。空いてる日教えて。 〕
メッセージの後に写真が送られてくる。華と伊之助がふたりで写っている写真だ。
本当に懐かしいな、あの頃のままで、生きて、元気そうだ。
でも、距離が近すぎる。
喉の奥が重くなった。何かが引っかかったみたいな不快感がある。
〔 うわ、あいつなんでシャツ前全開なんだよ 〕
〔 伊之助っぽいよね〕
〔 いや風紀が乱れるだろ 〕
〔 そこ気にするのね 〕
〔 気にするよ! 〕
ポン、ポン、と送られてくるメッセージ。
文字からでも分かる。善逸と話す彼女はいつも楽しそうだ。
今もきっと部屋で昔みたく可愛らしい顔で笑っているのだろう。
今度は気分が悪くなる。
この感情を俺は知っている。
嫉妬だ。