第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
そしてとうとう入学式当日。あの人と、仕事を休んできた炭治郎と共にこれから通う高校まで来た。
「ふぅぅ……深呼吸、深呼吸…」
炭治郎たちと別れて荒れる心の内を落ち着かせる。
正直あの人の隣を歩くのも嫌だった。
でもその気持ちを必死に塞ぐ。
「猪突猛進!猪突猛進!」
すると校門の方から聞き覚えのある言葉が聞こえてきた。
「!伊之助!?」
声の方まで駆けていくと、あの、伊之助がそこに居た。大きな桜の木に頭突きをしている。
(なっ、何してるの!?)
その様子にやばいと直感で感じて、なるべく人の少ないところへ無理やり伊之助を引っ張っていく。そして体育館や中庭から少し離れた校舎裏まで来た。
「おい!離せコラ!!」
「伊之助!あんなことしたら駄目でしょ?」
「は?誰だてめえ!」
「え」
「なんで俺の名前を知ってんだ!不審者か!?」
…覚えてないんだ。
悲しい気持ちになるのを必死に隠す。
「ふ、不審者違う!えーっと…あ!さ、さっき発表されたクラス表に名前があったから!」
「クラス表だあ?なんだよそれ」
「ろ、廊下にあるやつ」
でも写真まであるわけじゃないしこれ以上この話を続けられるのは困る。
「わ、私は華!友達になろう!」
「はーん?まあ、どうしてもってんなら俺様のダチにしてやってもいいぜ」
お、前世は子分がダチに昇格か。
「伊之助はひとりで来たの?」
「あいつは腰悪いから家から出んなって言ってあんだよ」
「そうなんだ。優しいね」
「まあな!!親代わりに飯食わせて貰ってるしな。その代わりに俺があいつを護ってやってんだ!」
「え、」
「施設だったからな、俺。親のことは覚えてねえけど。今はあいつのとこに引き取られてんだ。」
「そう、なんだ」
それなら目の前の伊之助の様子を見た感じで彼は独りではなかったようだ。
「で、さっきは何をしてたの?」
「俺は凄い奴だが勉強だけはできねぇ。頭が良い奴らに勝つためには頭を鍛えるしかねえだろ!」
「…」
色々伊之助らしいままだ。何も覚えていなくてもやっぱり伊之助は伊之助だな。
するとチャイムが聞こえ、私達は顔を合わせて慌て始める。
…伊之助や善逸とは、こうして普通に話せるのに。
そんなことを思いながら体育館までの道を伊之助と共に走り出した。