第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
分かりやすく、何と言ったらいいか分からないという顔をする善逸。
私も祖父母からこの話を聞いた時は驚いた。
そして、申し訳無い気持ちになった。
炭治郎にも、あの人にも。炭治郎がどんな思いで生きてきたかなんて何も知らないで、一方的に負の感情を抱くなんて御門違いもいいところだったなと思った。
そんなに長い時間を独りで苦しんで、その末にあの人と一緒になる道を選んだのなら、
私にそれを咎める権利はないのではないか。あの人を妬んでしまったのは間違いなのではないか。
だけどその一方で、生前交わした言葉の通り自分のことをだけを愛してほしかった気持ちもやっぱりある。
ほんの一瞬でも余所見なんてしてほしくなかった。
でもそれでは炭治郎はずっとひとりぼっちのままだったかもしれない。
せっかく二度目の生を授かったのに、彼が寂しい思いをして孤独に晩年まで過ごすのは嫌だ。
でも、だけど、しかし、それでも、そうだとしても、
なんて、駄々をこねる子供のような自問自答を繰り返して過去の可能性を考えたところで仕方ない。そうしたところで今は何も変わらないのだから。
静かにドリンクを飲み続ける私の様子を伺いながら、善逸がゆっくりと口を開いた。
「あの、さ。話に出たからぶっちゃけて聞くけど……そのー……炭治郎、最近どう?」
「どうって?」
「大丈夫かなって、色々と…華ちゃんも、さ」
「別に変わりないかな。良くも悪くも」
「……そっか」
「どうしたの?善逸がそんな事聞いてくるの珍しいね」
「……華ちゃんがさ、最近益々あの頃のまんまだから。俺は懐かしい気持ちが強くなるだけだけど…あいつはやっぱり、そうもいかないんじゃないかって」
「ああ…そっか…もう、そんな歳になったんだもんね。大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
嘘をついた。全然大丈夫じゃない。
炭治郎の私を見る目に、日に日に熱がこもっていくのがわかってるからだ。きっと、あの頃の私に近付いてきたからだろう。
私しか見てほしくなかったのに今はそんな目を向けてほしくない。
でも、私以外の人に寄り添う炭治郎は見たくない。
でも、私達は親子にならなければいけない。
でも、私は彼を愛している。彼もきっと同じ気持ちなのだと分かる。
でも、この気持ちは許されない。