第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
「まだ何も考えてないよ、中学も部活は強制じゃなかったからやってなかったし。そういう善逸はどんな高校生だったの?高校楽しかった?」
「普通だよ。楽しくなかったわけじゃないけど、特別な事も別になかったな。勉強して、友達と遊んで、委員会の仕事して、部活やって、」
「へぇ、部活は何してたの?」
「陸上部」
「おお、いいじゃん!善逸足はやいもんね」
「ま、まあね!一応これでもエースだったからね!」
「陸上部のエースって響きからしてカッコイイなぁ。モテた?」
「聞くなよそんなこと」
「かわいそうに」
「かわいそうって何だよ!!」
「聞くなっていうから想像で」
「想像で正解を当てないで!」
「あははっ」
ああ、楽しいな。
善逸と話してると嫌な気持ちが全部どこかへいく。
明るい気持ちになれる。
そういう空気を作ってくれているのか、善逸の持ち前の良さなのか。
どちらにしても、心から楽しいと思えるこの時間を作ってくれる善逸には本当に、本当に感謝しかない。
だってあの日善逸に会えていなければ、
きっと私はいまも自分の部屋のベッドの上で蹲っているだろうから。
そんな善逸だからこそ、話しておこうと思うことがある。
「あのさ、炭治郎のことなんだけど」
「ブフォッ!……た、た炭治郎?ええっと…な、なに?急にどうしたの?」
せっかくのドリンクを噴きこぼして、
そわそわと視線を彷徨わせる。
自分からのアクションは器用になってたけど、周りからのアクションには弱いままなんだな。
落ち着きを無くしてしまった善逸に少し悪いことをしてしまった気になる。
「ごめん、違うの。全然そういうんじゃないから。」
「あ……そ、そっか、わかった」
「うん。でね、炭治郎、30歳くらいまでずっとひとりで私達のこと探してまわってたみたいなんだ」
「え…それ、炭治郎から聞いたの?」
「ううん。炭治郎の今の両親からだよ。この前中学の卒業祝いをしてくれた時に私にだけ話してくれたの。炭治郎のひとり暮らしのときの家に、日本各地の地図と何かの手書きのメモが沢山あったんだって。それには『×』がびっしり書いてあって、黄色い髪とか猪とか、天狗の面とか、特徴が色々書き込まれてたみたい」
「それって…そ、っか。炭治郎、やっぱりずっとひとりぼっちだったんだな…」