第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
「美味しい!」
「美味い!」
「思ったより果肉大きいね、この一杯だけでもお腹膨れそう」
「前にやってた抹茶も良かったけど、やっぱり苺は安定だよなぁ」
「善逸、やっぱり女子高生みたい」
甘いドリンクを飲んで幸せそうに顔を緩める善逸がおかしくて笑うと、
「いいだろ別に、好きなんだから」
と頬を膨らませた。
妙に可愛らしい仕草をするおじさんだなとまた笑ってしまう。
同時に、中身は私のよく知る我妻善逸のままであることに安心もした。
「女子高生といえば、来週だっけ?入学式。はやいなぁ、華ちゃんがもう高校生かぁ」
「ね。時間が経つのってこんなにはやいんだね。そりゃ善逸もおじさんになるわけだ」
「生まれた年が違うんだからそれは仕方ないだろ!」
「ああ、そうだね。私も善逸も炭治郎も、年齢バラバラだもんね」
「…でさ、高校生になる訳だけど、もう部活とか何か考えてるの?俺の時と違っていろんな部活があるんだろうなあ。あ、高校生になったらアルバイトも出来るようになるよな。俺ももっと色々やっときゃ良かったかなあ」
善逸は気の回し方が上手くなったな。
視線とか表情とか声のトーンとか、話を切り替える仕草が自然になった。二度目の人生だから、幾分か器用になったのかも
。昔は事あるごとにあんなに騒ぎ立てていた善逸も今ではすっかり大人の…少し頼りなく見えるだけの、大人の男の人だ。
泣き虫はマシになったみたいだけど心根が優しいところは変わらないままで、
再会した後から何度もこうして私を連れ出してくれる。
炭治郎の古い友人という事であの人も善逸と会うことに反対はしないし、炭治郎も善逸には私のことを任せてくれから都合が良い。
それに頼りなさそうに見えるだけで、実はとても頼りになる。
そういうところも昔と変わらない。
善逸と過ごすこの時間に私は本当に助けられている。
生まれた時からずっと纏わり付いている息苦しさが、
善逸と話している時はマシになる。