第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
そして気が付けば、
街中で善逸と思いがけず再会した年からもう5年が経っていた。
「ここの新作ずっと飲んでみたかったんだよな」
「女子高生みたいなこと言うね」
「30代のおっさんひとりだと入りにくいんだよこういう店は。なんとなく気まずいの」
「家族でも親戚でもない女子中学生とふたりで入るのも結構勇気いると思うけど?」
「そのヤバさはわかってるから言わないでくれよ頼むから!だからちゃんと俺のことは華ちゃんのおじさんってことにしてほしいわけで!!」
「はいはい。奢るから一緒に来てください、なんて頭下げられたらさすがに断れないよ」
善逸とはよくこうしてふたりだけで会っていた。優しい子だから、私の気分転換に付き合ってくれているんだと思う。
誰も口にしないだけで周りからすれば30代の男と10代の女がふたりでいるのは怪しく見えているのかもしれないけれど、
私にとっては善逸はあの頃と変わらない、大切な友達だ。
…………
抜け殻のようにただぼんやりと日々を過ごしていたら、
あっという間に15歳になってしまった。
中学の3年間はまあ、正直それどころじゃなくてあまり覚えていないことも多いけど、充実していた方だと思う。
授業参観なんかは苦い思いをしたけど
それ以外は特にこれといった不満もなく、嫌味な教師もいなかったしクラスメイトも良い子達ばかりだった。
そうだ、これはちゃんと覚えてる。
ランドセルを卒業するのが嬉しかったことと、中学の制服は可愛いから袖を通すのが結構楽しかったこと。
あの時はそんな感情を抱く自分がやっと年相応の女の子らしくなれた気がして嬉しかった。
それに、最近は前ほど今の暮らしに気落ちしなくなってきた。
と思う。
まだまだ本物の親子のように自然に振る舞うことは出来ないけれど、
少しずつ今の生活に慣れてきているのがわかる。
頑張ったね、私。偉いぞ、すごく偉い。この調子で頑張ろうね。
なんて、昔炭治郎がしてくれたように自分を褒める。
自己暗示のように褒めて伸ばして、結果を出す。
今の私に出来るのはそれくらいだから。
過去も現状も変わらないなら未来を明るくする為に頑張るしかないんだから。