第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
「あ……そういう事か!よかったじゃんか、俺これでもずっとお前らのこと心配してたんだぜ?そっかそっか〜、炭治郎と華ちゃんがついに結婚か〜」
「……善逸、あのな、」
炭治郎もそうだったけど、華ちゃんの音も少し不安定だな。
まああの頃より平気で嘘をつく奴もあり得ないくらいひでえ奴も卑怯な奴もクズな奴も増えたこんな世の中だし、そんな中で生活してれば少しくらい音が変わってもおかしくはないと思う。
というか、そっか。
炭治郎、華ちゃんと会えてたのか。
よかった。本当によかった。
彼女が死んだあの日から炭治郎の音はずっと虚ろだったから。
本人は他の仲間達が死んでしまった時と同じようにその想いを受け継いで一生懸命踏ん張ってるつもりだったみたいだけど、
華ちゃんの死はずっと炭治郎を苦しめていた。
お前みたいに鼻が良くなくたって、俺みたいに耳が良くなくたって、伊之助みたいに敏感じゃなくたってお前のそれはみんなにバレてたよ。
生まれ変わってまた好きな子に会えたんならこれ以上に嬉しい事はないよな。
あんなに想い合ってたもんな。
やっぱり生きてるって素晴らしいことだよ。
俺もいつか禰豆子ちゃんや爺ちゃんに会えるかな。
会えるといいな。
伊之助や世話になった鬼殺隊の人達や蝶屋敷の子達にも。
それから、兄貴にも。あとチュン太郎。
あいつもまた雀なのかな?だったらもうどこかで会ってたかもしれないな。
「ていうかごめん、いま何か言いかけてた?」
「……善逸、俺は、」
「炭治郎さん、こちらの方は?」
「へ?」
「…………」
あ、れ……?
違う、華ちゃんじゃない。
近付いて声を掛けてきたのは知らない女の人だった。
この人のは知らない音だ。
おかしいな。こんな俺だけど、音を聞き間違えることだけはあんまりしないんだけどな。いや待って、やっぱりこの人の方からあの子の音がする。どうなってんの?どういうこと?
状況が理解できない俺を置いて、炭治郎は穏やかな笑顔を女の人に向けた。
「友達だよ、昔の。さっき偶然会ったんだ」
「まあ、そうだったの」
「……えっ、と……炭治郎、この人、誰?」
「俺の妻だ」
「え!?でもこの音は…、」
最後まで言う前に口を噤んでしまった。