第5章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「前編」
小学生の時に遠足で歴史博物館に行った際、偉人の誰かが使っていたという刀を見た。
ショーケースの中で刀身に当てられた照明がキラリと反射したのが見えた時、
俺は思い出した。
自分が生きていた時代のこと、家族のこと、仲間のこと、鬼のこと、そして最愛の人のことを。
その刀は鬼狩りの日輪刀でもなかったけれど、刀は俺にとってはもうずっと慣れ親しんでいた物だから多分それが魂の記憶の何処かの引き金に掛かったのだろう。よく分からないけれどそういうものなのだ、きっと。
全てを思い出したその日から、もう一度華に会うためにずっと彼女のことを探し続けてきた。だけど彼女はおろか、他の誰にも出会うことは叶わなかった。
この時代の俺の父さんは父さんではなかったし、母ちゃんも母ちゃんではなかった。
そして俺は一人っ子に生まれたから、禰豆子や他の弟妹達に会うこともなかった。
善逸や伊之助、義勇さん、鱗滝さん、他の鬼殺隊の人達にも誰一人として会えなかった。
15歳の頃までは希望を膨らませ続けていた。みんなと出会ったのだってこの歳の頃だったから、きっと今世もそうなのかもしれないと。結局ご近所さんにもクラスメイトにもかつての友人達はいなかったけれど、俺は諦めなかった。
20歳の頃はそれまでよりずっと意気込んでいた。未成年だった頃よりひとりで決められる事や動ける範囲が広がったからだ。
だけど誰にも会えなかった。いまの両親に迷惑も心配もかけないという約束をして俺は家を出た。
25歳の頃には日本をほとんど巡り終えていた。少しいい所の会社に勤められたお陰で他の人より給料に恵まれたと思う。
それと学生の時にバイトをして貯めていたお金とを併せて仕事の無い日は全国を周って華とみんなを探し続けた。
それでも誰も見つけられなかった。
そういえば以前の俺が生きていられたのは丁度この頃までだった気がする。焦る気持ちは募る一方だった。
そしてとうとう、あと1年で30歳になるところまできた。前世の享年を超えたいま、安堵よりも失望の方が大きかった。
頑張る事しか出来ないのに、諦めては駄目なのに、何があっても希望を捨ててはいけないのに、心が死んでいくのがわかる。
だって知らなかったんだ。独りがこんなにも寂しくて、虚しくて、苦しくて、悲しくて、辛いものだなんて。