第11章 R18 籠の鳥【分隊長×調査兵】
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揺らいだ空気は、私たちをどんどん小さく、籠に押し込めてしまう。
「。…優しくできなくてごめん。部屋まで送っていくよ」
私はふわふわと細い髪を指で梳き、のベルトを拾い上げた。
寄りかかる場所を失い、しなやかな両足を交差させて座る彼女は、今にも崩れてしまいそうなほど脆く見える。
しばらくして立ち上がり濡れた秘部を拭うと、は自身で身支度を始めた。
「いえ、一人で帰れます」
手際よく腰を締め、椅子に掛けていたジャケットを羽織る。
さっきまで小さな爆発のように涙をこぼしていたとは思えない機械的な動きだ。
感情を殺しているような、弱さを見せまいと鎧を纏うような。
「ハンジさんは、私があの家に戻るべきだと思っているんでしょう」
「え」
唐突なの発言に私は狼狽し、黙った。
「こんな入り組んだ事情、邪魔ですよね。疎まれても仕方ない」
……何を。
貴女が邪魔だなんて、疎ましいなんて、一度だって思う訳がないだろ。
の幸福しか願ってない。壁外になんて出ず、内地で穏やかに暮らせるならそれでいい。
でも、こんなことを考えるくせに、私はが離れていくことが耐えられない。
必死に繋ぎとめてしまう。体を重ねてしまう。
……そうだ、私は卑怯だ。
「父が」
か細い声が震える。
「父さえいなくなれば、私はずっとここでハンジさんと…っ」
「、」
熱に浮かされたようなその願いは、所詮少女の戯れ言にすぎない。
はシーナの出だ。つまり、上流階級の娘ということになる。
それなりに名の知れた家柄だが、は両親の反対を押し切って訓練兵に志願し、三年後は第四分隊配属となるまでに功績を上げた。
調査兵の令嬢だなんて聞いたことがない。
理由を尋ねても『憧れた人がいるから』の一点張りで、それ以上口を割ろうとしなかった。
彼女の両親は、過酷な訓練に耐えかねてじきに戻ってくると踏んでいたのだろう。
社会勉強の一環として当時はひそかに折れたのかもしれない。
しかし一向に気配を見せず、果てには最も危険な兵団に所属したひとり娘。
顔を真っ赤にした父親が乗り込んできたのは、つい最近のことだ。