第14章 About Her.
ハンジは情が深い。
いつも自分より他人を優先するやつだ。なかでも恋仲であるへ向ける声は、笑っちまうぐらい甘い。
「行ってくる」
「はい。……お気をつけて」
「ん、ありがとう」
短い会話。だがそれだけでこいつを包んでいた余所行きの殻は剥がれ、二人はごく自然に唇を合わせた。慣れたくもないが、もう誰も驚かなくなった。
たかだか三日だ。とはいえ、「大げさすぎる」と口を挟む気もなく黙っていた。貴族の豚野郎との会食など遅刻したってかまわなかったからだ。
ハンジは、
「おかえりなさい、ハンジさん!」
「!!ただいま。会いたかった…」
「すごく淋しかったです……!!あれ、なんだかいい匂い」
「んふふ、ばれたか。何だと思う?」
いつも眉間に皺を寄せ、組織の長らしくため息を吐きやがるから忘れていた。
____と笑い合うこいつの表情は、悪くねえ、と思う。