第11章 R18 籠の鳥【分隊長×調査兵】
「私は……、ここでハンジさんとずっと戦っていたい。あなたのためなら殉職も厭わない。なのになんで、こんな血を引いたせいで!」
テーブルに置かれたティーカップが、じっと息をひそめて私たちを見守っている。
が淹れてくれた紅茶は波立たず、ただそこにあるだけだった。
「綺麗な服も豪奢な家具もいらない。私はハンジさんだけいればいい…」
泣き言を繰り返すに、私はぽつんと声を落とした。
「このまま…二人で逃げようか」
なんて無謀で無責任な言葉だろうか。
一瞬で自己嫌悪の念にかられるが、ふと、これは私の切れ端にある本音だと気づいてしまった。
正当化できるほどロジカルでもなく、実行できるほどの強さもない、私の。
「…なーんてね。冗談だよ」
「……はい」
は俯いたまま呟いた。
その返事は何に対してのものなのか。
わかっていたけれど、言わない。
覚悟を決めなければ。
理想に張り付いていてもしょうがない。
私のエゴではなく、親の意思でもない。彼女の想いを私は汲みたい。
紅茶を飲み干し、私はに視線を投げる。
「明日、の家を訪ねてもいいかい?」
今度は彼女が驚く番だった。
意図を掴みかねて困っているようなまなざしが、私の胸の中心を射貫く。
「あした?」
「そう、明日だ。私が直談判する。
は賢くて、勇敢で、調査兵団に必要だと。子どもの人生をゆがめる権利は親にさえ無いことを、私は伝えに行く。」
琥珀の瞳に一縷の光が、丘のような頬にふわりと赤みが差した。
傲慢かもしれない。これだってエゴイズムなのかもしれない。
だとしても、さえ赦してくれるなら。私は絶対に無駄なあがきで終わらせない。
「……っハン、ジさ」
駆けてきたはすっぽりと私の腕の中に収まり、全身の力が抜けていくのが伝わった。
貴女が好きだ。
いつかくる最期まで、私のそばを離れないで。
「あ、恋人同士だってことも言わないとね」
「…それはさすがに、もう少し先で」
情報量が多すぎて殴られかねない、と言うの顔は笑っていた。
背に纏った風切羽で高く高く、鳥籠を捨て去って。
本当の自由の翼を手にするために。