第9章 あなたとりんね 【転生現パロ】
「ハンジさん、こっち空いてましたよー!」
ニファは学食に着くなり駆け出し、人混みをかきわけ席を確保して満足げな顔を向けた。
早く早くと急かす様子に頬が緩む。
お礼を言い、歩を進めようとした矢先のことだった。
微かなそれを私は聞き逃さなかった。
軽やかに、でも確かな存在感をはらんで、何度も私を呼んだあの声がきこえた。
「…っ!」
思わず周りを見渡す。
血流が増え、体の先端が細かく震える。
まさか、気のせいだ。そんな虫のいい現実なんてあるわけないだろう。
運命でもない限り。
しかし、そんな想いも瞬く間に水泡に帰される。
私の足は何かに駆られるように惑い始めた。
「ハンジさん!?」
焦るニファの制止に、じわじわと自責の念がこみ上げた。
…でも、今動かなかったら絶対後悔する。
「ごめん、先食べてて!」
運命なんて信じてない。
でも、生まれ変わりがあるのなら、一縷の可能性に賭けてもいいじゃないか。
蜘蛛の糸のように脆くて、触れれば千切れてしまうようだけれど。
ごった返す人をかき分けて愛しい人の面影を手繰る。
後先なんて考えもせずに。
「!!」
私の呻きにも似た声は、生徒らの喧騒に掻き消された…はずだった。
「え…っ」
一人の女性の、カールした睫毛に縁どられた瞳が驚愕に見開かれる。
「……嘘、でしょ」
にわかに信じられないけど、彼女がいた。
やわらかそうな髪や、すんなり伸びた綺麗な四肢。
間違えようがない。何度も夢想したの姿が確かにそこにある。
心臓を掴まれたような感覚。
貴女に触れたい。会いたかった、ずっと探して生きてきたって伝えたい。
苦しくって泣きそうだ。
「あの」
「…へ?」
甘い香りが鼻をかすめる。
一瞬、堪え切れず自分が声をかけてしまったと思った。
違う。
破裂しそうな鼓動を抑える私に向かい、目の前の女性は苦く笑った。
「すみません、どなたでしょうか?」
その一言を聞いた途端、舞い上がっていた心が鋭く叩きつけられた。
わかっていた。
夢物語は、あまりにも都合がよすぎること。
「……ぁ」
私は眉を寄せ、彼女の名前以外の言葉を失ったように立ち尽くす。
ねえ、これじゃあまりにも残酷じゃないか。