第9章 あなたとりんね 【転生現パロ】
パラパラと文字の羅列を追う。
理系の論文にありがちな舌を噛みそうな横文字や、簡潔すぎる言い回しは嫌いじゃない。
私は生物学を専攻している。
兵士だった頃からは想像もできないほど白く清潔な研究室に、私の居場所はあった。
体勢を変えると椅子がギィ、と小さく軋む。
この部屋をあの目つきの悪い彼が見たらどんな顔をするだろう。
得意になる私に、『悪くない』と呟く様子がありありと浮かぶ。
ああでも、資料を散らかしてしまう性分は直っていないから、また怒られてしまうかな。
「ハンジさん、大丈夫ですか?根の詰めすぎは体に毒ですよ」
過去に思いを馳せていると、そんな感傷を打ち消すような声が降ってきた。
「ニファ!…うん、ありがとう」
偶然にも同じ院生のニファ。
前世の記憶があるらしく、今世では同級だというのに敬語が抜けていないのが可愛らしい。
つややかな赤毛を揺らしにっこりと笑う。
「そろそろお昼行きましょう!
今日は久々に学食にしませんか?
幻のチーズケーキ、卒業までに食べなきゃ気が済まない~っ!」
「あはは、いつも争奪戦だからねぇ」
私は目頭をほぐしながら立ち上がる。
フレアスカートとウェーブした細い金のカチューシャを身に着けた彼女と、特にこだわりのない、ラフなパンツスタイルの自分。
傍から見れば異質な組み合わせであろう二人で、取り留めもない会話を交わしながら食堂へ向かった。