第8章 Milky Way 【七夕/分隊長×調査兵】
いつもよりいくらか明るいような澄んだ夜。
膨大な資料をかき集め分析し、そろそろ眼精疲労が限界を迎えそうだ。
「こんなもんかな。あと提出用にざっくり纏めて…」
静まり返った執務室。
頬杖をつくと、殺風景で味気ないからと彼女が生けてくれた花々が目に留まり、つい顔がほころんだ。
愛だ、と思う。
健康なジュースのような色が私の胸を染め上げる。
花を選び、剪定し、せっせと瓶に水を汲んでくれるを想像して、捧げたはずの心臓が締まるのを感じた。
もう寝ちゃってるかな。会いたい。
「…ハンジさん?」
「うおっ!?」
急な人の気配に勢いよく立ち上がる。
「!」
夢か幻か、横にはまさに今思い浮かべていた恋人の姿があった。
びっくりした…。違う意味で心臓が縮む。
私は暫し立ち尽くし、ゆるりとした寝間着で佇むを見つめた。
なんか……うまく言えないけど、こんなだったっけ。
無防備な新鮮みにときめいてしまう。
オーバーな私の反応に若干引きつつ、目の前の彼女はやわらかく言葉を紡いだ。
「ノックしても全然気づいてくれないんですもん。灯りは点いてるのに」
「ご…ごめん。ちょっと疲れちゃって、貴女のことを考えてた」
「ええ?」
ぽぽぽ、と陽気なオノマトペが聞こえそうなくらいに赤くなる顔を見た。
本心を言っただけなのに、なんて笑えば「そういう問題じゃない!」と怒られる。
豊かなこの表情を眺めるのが好きだ。
素直でかわいくて、つい楽しんでしまう。
「あ、用件を聞いてなかったね。どうしたの?」
ふと思い出して尋ねるとは途端に口ごもる。
「! ええと……」
「ん?」
「…空が見たくて」
空?
予想外の言葉に考え込む。
てっきり、誰かからの伝言か何かかと思っていた。
月見がしたいのだろうか。でも満月は二日前に過ぎたはず…。
首をかしげる私に、ずいっと縦長の紙が差し出された。
袖からこぼれる白い肌。
「東洋ではこの日に星を見上げて願い事をするって、ミカサに聞いたんです。
ロマンチックで素敵だなあって」
そう言って、えへへ、と照れたように笑う。
部屋の微かな灯りを受けて、紫色の紙があたたかく染まっていた。