第7章 コスメティックロマンス 【夜会】
「そろそろ出発の時間だ」
ハンジさんが時計を見つめ呟く。
時間は無情だ。
ふたりで兵舎に籠城しちゃおう、なんて言ってくれないだろうか。
くだらない妄想。
夢みがちな私を諫めてほしい。
「」
「っはい」
きっとハンジさんは全部わかってる。
こんなにも熱の篭った視線で、私を捉えて離さない。
ふたりきりになれなくても今はそれで十分だ。
「行きましょうか」
ドレスに似合う小ぶりのバッグを持つ。
すると、皺ひとつないイブニングを着たハンジさんが、膝をついてこちらに手を伸ばした。
「御手をどうぞ、お姫様?」
「…!」
軽く曲げられた指に愛の色を見た。
あんまり深くて…私の方が飲み込まれてしまいそう。
ゆるみ赤らむ頬を隠せない。
私は努めて淑やかにハンジさんの手を取った。
「…私から離れないでね」
眼鏡の奥の紅茶色。儚く玲瓏な幕開け。
夜が、始まる。