第7章 コスメティックロマンス 【夜会】
きゅぽ、と紅の蓋を開ける。
くるくる捻り、赤く艶やかなそれを唇に乗せ彩っていく。
瞬くたびにぱちんと音がしそうな睫毛。
質素なドレッサーを覗けば、潤む目に儚く、それでいて少しあざとさが滲む塩梅でラメが散っていた。
「よし、完璧」
陶器のように仕上げた肌に触れて満足のため息を吐く。
やっぱりお化粧が好き。
誰のためでもない、自分がかわいくなるための。
環境が環境なので、普段着飾る機会など全くと言っていいほどない。
だから今夜は特別。
兵団に積極的に出資してくれる貴族主催のパーティーだ。
華やかに、でも決して下品にはならないくらいに、私は私を輝かせる。
カラフルなグリッターが詰まった壜を眺めていると、不意にコンコンと扉が鳴った。
「、入ってもいい?」
この声。
突然の登場に思わず起立してしまう。
「ハンジさん?はい、どうぞ」
ゆっくりと部屋の灯りがもれる。
息を呑む音がした。
どちらのかはわからない。けれど、お互いから目が離せなかったのは確か。
「きれい…」
「え?」
束の間の静けさ。
ハンジさんはゆっくりと微笑む。
「綺麗だよ、。
このまま君を閉じ込めてしまえたらいいのに」
私が纏うイエローのシフォンとハンジさんの深い藍色が重なった。
まるで夜に包まれる星みたいに。
「ハンジさんこそ燕尾服がよくお似合いです…!
あんまり格好良くてびっくりしちゃいました」
見慣れない姿に高鳴る心臓をやりこめつつ、なんとか言葉を紡ぐことができた。
この中性的な魅力と色気に気づいてしまえばあとは早い。
落ちるのみだ。
情けないくらいあっけなく。
「そう?嬉しいよ。
ドレスよりこっちの方が落ち着くんだ」
「そうなんですか。でもドレス姿も素敵なんだろうなあ」
「そんなこと言ってくれるのは貴女だけだ。
聞いただろ?正装を選びにリヴァイとエルヴィンと四人で街に出向いたとき…」
「ふふ、本心はきっと違いますよ。ハンジさんは美人ですから」
数センチの距離で言葉を交わす。
彼女はきっとどちらも似合う。
しなやかで妖艶なマーメイドラインなんてどうだろう。
均整の取れた骨格と整った顔が、私の中で膨らんでいった。