第5章 バスルーム・ラブ 【分隊長×ハンジ班夢主】
「待って」
ばしゃんと水飛沫を立てて、ハンジさんの中に引き戻された。
「なにを…」
「まだあがらないで。もう少しだけこのままでいようよ」
懇願するような顔で言われたら断れないじゃないか。
私は複雑な心持で、再び体を沈ませる。
「ねえ…さっきのさ、私に好きだって言ったこと」
「え」
思い出したくない羞恥がよみがえる。
どうしていま蒸し返すの、ハンジさん。
「本気にしていい?」
冗談っぽく、でも瞳に真剣みを宿らせてハンジさんは問うた。
私は狼狽えてしまう。
本気にって、つまり?
「っ!… 私は一生、兵士として貴方についていきます」
どうしていいかわからなかった。
ここで認めてしまったら何か変わるのだろうか。
そんな勇気も、確証もない。
モヤモヤはもう収集がつかないほど広がって、私を支配していた。
「…そっか、引き留めて悪かったね。
そろそろ仕事を進めよう」
ハンジさんはザバリと浴槽から上がり、脱衣所へ出ていった。
ひりつくような哀哭が胸を掠め、ドロドロの感情が流れ出す。
ハンジさん。まだ本心を伝えられてないのに。
置いていかないで!
「待っ…」
気づいてしまった。
この息苦しさは、みんなのハンジさんに戻らないでほしいという独占欲は。
「嘘…!嘘です!」
勢い余って抱きしめてしまう。
ハンジさんの肌が擦れる。
「…?」
「んっ、あ、いや…嘘ではないんですけど…」
誤魔化さずに言いたい。言わなきゃ。
「きっと私、ハンジさんが好きなんです。
本気にしてください。恋人に、してください…」
なんて間抜けな告白だろう。
それでもすごく晴れやかだ。
「…その言葉がずっと聞きたかった。
私も貴女が好きだ。よりもっと前からね」
「ハンジさん」
ひたすらに優しいまなざし。
鈍いのはどうやら私だけみたいだった。
後頭部をぐっと引き寄せられ、むき出しの額にキスが落ちる。
「ハンジさん…口に」
そういうと彼女は目を丸くし、愛おしげにはにかんだ。
「そんな顔他に見せたらだめだよ、」
かわいすぎる、という呟き。
私の照れ隠しの抗議はやわらかいもので塞がれた。
…こんなに幸せでいいのかな。