第5章 バスルーム・ラブ 【分隊長×ハンジ班夢主】
「やーっと降参してくれた。ほら、気持ちいいでしょ?」
…どうしてこんなことに。
あの後なんだかんだと説き伏せられ、半ば抱えられるようにして浴槽に入った。
強張った体に血が巡る。
確かに最高の至福だ。
でも、見られたくなかったなあ。
もぞもぞと体を動かすも、後ろから包みこまれて逃げられない。
「の体は綺麗だね」
「そんなわけ…。傷だらけで、痣だってたくさんあります」
全身に張り巡らせたような立体機動の跡を隠す。
兵士なら当たり前だと言われればそれまでなのだが。
何度も打ち付け、何度も血を流した背中は、私の密かなコンプレックス。
「誰が何と言おうと貴女は綺麗だよ。
それに、私とお揃いだ」
生傷を指でなぞられ、不意に泣きそうになってしまった。
甘いふわふわが心を満たす。
こんなにも救われてしまう。
お揃いという言葉に、あまつさえときめいて…。
ときめく?
私は頬に手を当てる。
どういうこと。
相手はハンジさんだぞ。同性で、上官で、憧れで。
…『憧れ』。
この気持ちを恋と勘違いするのはありがちらしいと、いつか友人から聞いたことがある。
そう、ただの敬愛だ。
よかった。
「あはは…慰めてくださってありがとうございます」
モヤモヤに気づかないふりをして振り向き、ハンジさんを見上げた。
そういえば裸眼って新鮮だなあ。
やっぱり格好いい、なんて…。
「もう!だから違うんだって!」
「どうしたの…のぼせた?」
急に叫びだす私に気遣わしげな声をかけるハンジさん。
びっくりした様子がすこし可笑しくて。
「はあ…幸せだなあ」
水が揺れる音とともに、湯船の中でハンジさんの胸、腕、脚が密着する。
今度は私が驚く番だった。
なにこれ、なにか変だ…。
風呂場の暑さのせいじゃない。
体からバクバクと尋常じゃない音が響く。
さっきまで落ち着いていられたのが嘘みたいに、ぐんぐん体温が上がっていった。
ほんとうにのぼせてしまいそう。
「あっ… ハンジさん、私もう出ますね」
これ以上は限界と悟り、湯船から腰を浮かせる。
顔が見られない。
どうしたんだろう、私…。