第13章 ホークスの宅急便
セミが遠くで鳴いている。
うだるような暑さは未だ変わらず。
空に近く在る俺の背を、照る陽が焦がし、焼きつける。
高速でビルの間を飛び抜けていくパトロールの最中。
見つけてしまった。
「…あ。いいなぁ」
気に入ったものがあると、何でもかんでもすぐさま手に入れようとしてしまうのは、昔から変わらない俺の性分だ。
地上に降り立ち、躊躇いなく店の扉を押し開けた。
「あぁっ!姉ちゃんホークスたい!」
「えっ!?こげなダサイ店にホークス!?」
「どもー。ダサイ店て」
オーバーリアクションな店員さんに、笑いかけ。
ピッ、と表のショーケースを指さした。
「あのアクセサリー欲しいんだけど」
「えっ、あれ女物だよ!?しかも何十万するけど…まさか彼女に!?」
「嘘でしょ!?彼女おると!?」
「いやいや、仕事で使うだけ」
俺がそう嘯くと。
「「なーんだ、焦った。」」
「……焦った?可愛いらしか〜」
そんな風に。
あけすけに。
感情を吐露してくれる女性たち。
「当たり前たい!」
「あたしらホークス大好きやけんね!」
「付き合って!」
「…あー、今は仕事が恋人やけん」
「「何その理由、似合わな!」」
「ヒドッ」
「ホークスに貢がれるって、その子は幸せ者たい」
店員さんの言葉を聞いて。
俺は一瞬考えて。
言葉を返した。
「…そうだったらどんなに良いか」
今週末より、今年度雄英生インターンの申請期間がスタートする。
だから彼女はきっと、この土日。
博多に訪れるはずだと踏んでいた。
だって必ず、来るはずだから。
超人気ヒーロー、「ホークス」にインターンの許可を貰うために。
「まいど!」
「あーんまた来てホークス!」
「諦めな!あんなアクセサリー買ってんだから。あんたじゃ無理無理。彼女さんと、お幸せにー!」
(…違うって言ってんのになぁ)
でもまぁ、確かに。
あの店の店員は、若そうに見えて、客を靴から見るベテランの宝石商だった。
自分は、こんな高価なものを突然贈ろうと思いつくほどに、彼女に溺れきっている。
テキトーにはぐらかしたところで。
歴戦の商人からしてみれば、一発で嘘だとバレて当然かもしれない。
(もっと面の皮、磨かないと)