第10章 お先ダークネス
『仮免の時は巻き添いで吹き飛ばしてしまってごめんなさい。個性を扱えるようになりたいから、どうやって訓練しているのか教えてください』
(意味深な言い方だったけど、全然気付かれてないっぽくて良かった……!!)
歩き出してすぐ、彼女は本題に触れた。
とどのつまり、彼女は、緑谷の個性が知りたいというよりも、自分の個性の扱い方が知りたいのだ。
安心した緑谷は落ち着きを取り戻し、彼女の要望に応えようと言葉を返す。
「えっと…あ、まず、仮免の時のことは全然大丈夫だよ。怪我もなかったし全然大丈夫!扱えるようになりたいってことは、さんの個性は僕の個性みたいに、すごく…制御が難しいの?」
『常にブレーキを踏んでいるような感覚なんだけど、伝わるかな。使おうとすると常にトップギアで、トップスピードで…高火力。人に向けて使えない。だから扱いづらい』
「さんが瞬間移動をする時って、その場に小さな爆風が起こってるよね?あれって、仮免終了時に起こしたような超爆風をものすごく圧縮した状態で自分のすぐそばで引き起こして、身体を弾き飛ばしてるから、高速移動できてるんだと思ってたんだけど、合ってるかな」
『その解釈で合ってる。…自分に対して、その使い方ができるようになるまで数ヶ月かかった。でもまだ扱い切れてない。誰かに向けて使おうとすると、加減できない』
なんでかな、と、彼女は呟き、緑谷がまた地面に転げ落とした大きなゴミ袋を一つ拾った。
「…僕の逆だ」
『逆?』
「雄英に来てすぐ、初めて、この力を人に向けて使おうとしたことがあったんだ。その時は無意識的にブレーキがかかって、コントロールできた。でもそれからしばらく、力を使うと身体の上限を勝手に突破して、四肢が破壊されるくらいの力を出しちゃうことがよくあって」
『……。』
無意識的に、という言葉を聞き。
が眉間にシワを寄せた。
ゴミステーションへとたどり着く直前。
言葉を続けようとした緑谷の視界の隅に、突如、音もなく、見慣れない人の顔が映り込んできた。
「「『…………』」」
なぜか壁に半分埋まった状態の人面が、じっと二人を見つめてくる。
沈黙が支配しているその意味不明な時間を強制的に終わらせたのは、二人の訝しげな視線を奪って離さない、人面だった。