第10章 お先ダークネス
「ゴミね」
ごく身近な話題で。
「食品トレイとかも可燃で出しちゃって大丈夫だからね」
ごく自然に話しかけてくる怪奇現象。
「…あ……はい……」
呆気にとられ、緑谷が返事を返すと。
人面は力強くうなずいて、スゥ、と壁の中へ消えていった。
(…なんだ今の)
よくわからない現象に二人が顔を見合わせ、歩き出そうとした時。
緑谷が足を踏み出そうとしていた地面から、先程の人面が再び現れた。
「元気な1年生って君だよね!?」
「うわぁ!?」
驚いて足を戻した緑谷の反応とは正反対に、は大きく足を踏み出し、力一杯人面を踏み抜いた。
「危なーーい!つってね!踏めないんだけどね!!ビックリしたよね!?悪いことをしたぁー!!ビックリすると思ってやってるんだけどね!!」
「何なんですかあなたは!?」
「アハハハハハハハ!!何なんだろうね!!!俺も何してるんだろうって思うよね!極まれに!ていうか彼女諦めずに何度も躊躇いなく踏みつけてくる!!痛い痛ーーい!!痛くないんだけどね!!」
諦めない心って大事だよね!!と、に足蹴にされながら、良い笑顔を浮かべている人面が怯むことなく話しかけ続けてくる。
自身の攻撃が無意味だと悟ったが、ようやくピタリと動きを止め、一歩後ろへと下がった。
「まァ俺のことはじきにわかるんだよね。とにかく元気があって何よりだよね!!なんか噂になってたから気になって見に」
スゥ、と。
音もなく、言葉の途中で、人面が地面へ吸い込まれていった。
数秒間、二人とも人面の再浮上を無言で待ち続けたが、一向にその気配はない。
「何…だったんだ」
『行こう』
人面への興味が失せたらしい彼女が、緑谷に声をかけた。
緑谷は彼女の言葉に頷き、歩き出した。
『ねぇ、緑谷くん』
「あ、どこまで話してたっけ」
彼女は言った。
『無意識に人への攻撃を制御できるキミと』
『無意識に人への攻撃が過剰になる私は』
『何をどうすれば』
『その「どうしようもない差」を、埋められるの?』