第9章 遠い憧れ
「…もっと、話を聞けばよかった」
轟は俯きながらそう呟き、へもう一度視線を向けた。
「緑谷が似たような悩みを持ってる。あいつは上限をあげるために、身体を鍛えてるが…おまえの個性にも応用できる訓練がないか、明日一緒に聞いてみよう」
『え?…うん、ありがとう轟くん』
寝る前に長話して悪かった、と。
轟は腰を上げて、話を切り上げてしまいそうになってから。
またゆっくりと。
ソファに腰掛けた。
「…」
『うん、どうしたの?』
はただ静かに、轟の言葉を待ち続けている。
黙ったまま、言葉の続きを待っていてくれる彼女を見つめながら。
轟は緊張した面持ちで、深呼吸をする。
「…。最後にひとつだけ、いいか。エンデヴァーの息子のわりに助言もアドバイスもしてやれず、申し訳ねぇ限りだが…」
できることなら、と。
轟は包み隠すことなく、自分の願望を口にした。
「おまえ、俺の友達になってくれねぇか。理由はうまく言えねぇが…おまえといると、とても落ち着く。それだけじゃダメか」
そんな頼み事をされたのは、初めてのことだった。
は目を丸くして、一瞬言葉に詰まり。
どう反応を返していいのかわからずに。
とりあえず。
ガクガクと激しく頷いた。
『わ、私も…私もとても、落ち着く。轟くんと友達になりたい』
「…そうか。よかった」
『あと、ごめん。勝手にもう友達だと思ってた』
「え」
『意識しなくても、気づいたら、よく一緒にいるような気がしてて…だから、友達になれたと思ってた』
「……。」
『一緒にいる時間と親密度は比例すると思ってたんだけど、ごめん、勘違いしてたの、ごめん』
私、とても恥ずかしい奴だったかも、と。
顔を赤く染めて、視線を晒す彼女を眺めて。
轟は、微かに笑った。
「…そうか。そう思ってくれてんなら、よかった」