第9章 遠い憧れ
毎日、毎日。
轟と向かい合って、終始、無言で食事を摂っていた。
そういう性格なのだろうと思って特に違和感は感じなかったが、本当はそうではなかったらしい。
6月の仮免試験で不合格となった彼女は、訓練中も度々、煙突状になった訓練場の一部を大破し、瓦礫を宙から降らせ続けていた。
迫る仮免試験の前日。
轟が「どうして」と聞いてくれたその時が、彼女にとっての最後の頼みの綱に思えたのだろう。
焦って返した鋭利な言葉は。
予想通り、轟の心を深く抉った。
『打算的でごめん。でも、キミがエンデヴァーの息子だから、傍にいたんじゃないんだ。エンデヴァーの息子がキミだから…キミが、初日に、足を手当てしてくれたり、焼肉で私が遠慮して焦げた野菜しか食べてないの気づいてくれたりするような優しい人だって思ったから、傍にいたくなったんだ。キミが二つの個性を扱える、すごい人だから…もっとキミのことを知って、仲良くなれたら…キミの個性のことを、教えてほしいと思ってた』
は、轟を通して、エンデヴァーを見ているわけではなかった。
(…あぁ、そうか)
思い出した。
夜嵐も、あの時。
ーーーやったあ!!勝ったぞ!!!
ーーーあんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?すごいな!!
推薦入試の日。
まるで、エンデヴァーの息子であることが「すごいすごい」と言われているようで。
癪に触った。
だから「黙れ」と突き放した。
けれど、あの時夜嵐は。
ーーーやったあ!!勝ったぞ!!!
ーーーでも次はわかんないな!
ーーーあんた、凄いなあ
夜嵐は、俺を見て言ったんだ。
あんた凄いなと、ただ率直に。
けれど、俺が意図を汲み取れていなかった。
汲み取る余裕なんてものが、その時はなかった。
昔から。
どいつもこいつも、エンデヴァーありきで俺を見ているような気がしてた。
俺自身がそうだったからだ。
雄英に来て、少しはその考えも薄れては来たものの。
まだまだ何も変わってない。
まだまだ俺は、これから
変わっていかなきゃいけないんだ