第9章 遠い憧れ
『私は低温の炎が出せない。あの熱エネルギーの放出も、何も加減しないと大爆発になる。だから体育祭で見せた轟くんの火力が、もし轟くんにとっての「初速度」だったなら…エンデヴァーから、実戦に使っても大丈夫なレベルまで「火力を下げる訓練」を受けてるなら…教えてほしいと思ってた。聞いてみたいって思ってた』
個性も一つの身体機能。
ヒトが走り出そうとする時に、初めからトップスピードでは走れないように。
多くの個性が、「アクセル」を踏み、叩き上げ鍛え抜き、ようやくその上限を突破していくことで強くなる。
しかしは、勝手に突破してしまっている能力を上限まで抑え込むため、「ブレーキ」を踏むことに苦労しているらしい。
「…緑谷みてぇだな」
轟は今までの話を聞き、身近に似た例がいることを思い出した。
「…けど、悪ぃ。俺が知ってんのは、許容上限を引き上げて、火力を増すための訓練だ。力にはなれねぇ」
『…そうなんだ。わかった』
「……」
聞いてばかりで悪ぃ、と。
轟は前置きをして。
昨日からずっと、聞きたくて。
怖くて、聞けなかったことを口にした。
「…もし、俺が奴の息子じゃなかったら…」
『…もし?』
「……」
おまえ
俺と友達になってくれたのか。
「……いや」
なんでもねぇ、と。
暗い顔で口を閉ざした轟を見つめて、が言葉を続けた。
『嫌な言い方をしてしまってごめん。…言い訳させてもらえるのなら、私は…キミがエンデヴァーの息子じゃなかったら、もっと…』
「……もっと?」
『……もっと、一緒にいて楽しい友達になれていたと思う』
目を見張った轟を見つめて。
は申し訳なさそうに言った。
『轟くんと出会ってから今日までずっと、個性のことで、今すぐにでも聞きたいことがたくさんあった。けど、キミと一緒にTVを見ている時、キミはエンデヴァーが画面に映ると、必ず席を立っていたから…よく思ってはいないんだろうなってこと、なんとなくだけどわかってた。キミが嫌がりそうな話をしなきゃいけないと思うと、うまく言葉が出てこなくて…』