第9章 遠い憧れ
『ううん、全然ファンではないんだ。ごめん』
予想に反する彼女の返答。
拍子抜けした轟は、目をぱちくりとさせた後、グッと拳を握って、もう少し踏み入った話題を提示した。
「…昨日、おまえに聞いただろ。なんで俺の傍にいてくれるのかって。特にファンってわけでもねぇ「エンデヴァーの息子」と一緒にいることは、おまえにとってそんなに意味のあることなのか?」
『……うん、とても重要なことだよ』
「……、悪ぃ。よくわかんねぇから、YES NOだけじゃなくて、もっと説明してくれねぇか」
埒が明かないとの会話。
轟は冷静に努めながらも、内心では彼女の言葉を引き出そうと必死だ。
また、しばらく間があいて。
ようやく彼女が口を開いた。
『……エンデヴァーの息子が、キミだから』
そして。
こうも言った。
『だから…助けてくれると思ったんだ』
6月の仮免試験の日。
突然、「個性」が思うように扱えなくなった。
の身体に宿っているカルラは、炎熱系個性の中では、「炎」に近い部類の個性だ。
本人ですらそう思っていた個性が、突如変容した。
最終試験の終盤。
あと数分で試験が終わる…そんなタイミングで、は、今日のような「熱エネルギーの大爆発」を引き起こし、意図的ではないにしろ、数人の重傷者を出してしまった。
結果は当然、不合格。
『カルラが「起きている」時しか大爆発は起こらないし、起こせないから…きっとこの熱エネルギーの出力元は、元から発現していたカルラの変容なんだと思う』
轟のように、二つの個性が開花したわけではなく。
もとから一つの個性が、二つに変容した。
そんなことが科学的にあり得ることなのかはわからない。
しかし今日の仮免ニ次試験において、彼女は強大な力を扱うことが出来ず、周りの人間どころか自分の命すら危険に晒した。
科学的根拠がなくとも、あり得なくとも。
実際その身に起こっていることなのだ。
『体育祭で、轟くんと緑谷くんが戦ったところを見ていたんだ。一瞬で最大火力を放ったキミが…もしかしたら私と同じ「体質」なんじゃないかって期待した』
「…体質?」