第9章 遠い憧れ
が寮の玄関へと足を踏み入れると、珍しく共有リビングで舟を漕いでいた轟が、ハッと目を覚ました。
「おかえり」
ずっとの帰りを待っていた轟は、眠そうに片目をゴシゴシと擦り、玄関口へ立つ彼女の方へと寄って行った。
「…、ちょっと話したい。いいか」
『…ただいま。大丈夫だけど、轟くん眠いんじゃない?こんなにリビングが静かってことは、みんなもう疲れて寝てるんだよね?』
「あぁ。も寝るか?」
『ううん、私は…まだ寝ないかな』
「じゃあ、少しだけ」
リビングのソファに腰掛けた轟は、「手短に話す」と銘打ったわりに、一向に話し始めようとしない。
なんと言っていいのかわからず、思考している最中なのだろうと察したは、黙って彼の横顔を眺め続ける。
(……結構深い火傷なんだなぁ)
普段から、他人の顔の作りなどに大して興味を示さないは、今ようやく、轟の左眼の辺りにある「アザ」らしきものが、皮膚が焼けただれた火傷痕だと気づいた。
左半身に炎の個性を持つ彼の、左眼を狙ったかのような火傷痕。
訓練中でも、試験中でも。
は、彼の左半身が自身の炎によってダメージを受けている姿を、目にしたことがない。
自分に似て、「そういうつくり」なのだと思っていた。
しかし、どうやら違うらしい。
「…火傷、気になるか」
『…火傷なんだなって今気づいた』
不意に問いかけられた轟の言葉に、は特に何も考えず言葉を返した。
しかし、答えた直後。
以前もそういう答え方をしたせいで、目の前にいる彼を傷つけてしまったはずだということを思い出した。
『ごめん、また…』
は慌てて深く頭を下げたが、轟は複雑そうな顔をして、また黙ってしまった。
少しの沈黙の後。
「……どっから話したらいいのかわからねぇから、まず最初に聞かせてくれ。、おまえエンデヴァーのファンなのか?」
彼女の答えによっては、説明の仕方を考えなくてはいけない。
轟はそう考え、まず聞いてみることにした。