第9章 遠い憧れ
ーーー午後18時ジャスト。
人気がなさそうな公園を指定して、彼女と待ち合わせた。
「久しぶり!どげんしょったとや?これお土産の明太…」
子、と言う前に。
遠くから駆け寄ってきていた彼女が、俺の胸に飛び込んできた。
今までにない彼女の積極性に、俺は面食らい、笑い顔のまま硬直し。
片手に掲げていた博多土産セットを落っことした。
「…あー。…熱烈歓迎?何、そんなに…」
寂しかった?と。
聞こうとしてやめた。
俺は平静を装うのに必死で、一瞬だけ、気付くのが遅れてしまったけれど。
彼女の両肩が、かわいそうなほどに震えている。
『ホークス、私…』
私、また。
その言葉を振り絞るのがやっとだったのか、彼女は言葉を失って。
俺の胸の中で、すすり泣き始めてしまった。
「…そげに泣かんでも良か。十分頑張ったけん」
試験結果発表後、すぐに。
俺は公安から、今日の試験結果を教えてもらっていた。
「合格、おめでとう。何があったのか聞いてるけど、とりあえず合格できたんなら、そこまで気に病むことないでしょ」
『…病む』
「病まない病まない!仮免許証も手に入ったし、インターンにも行ける!順風満帆、万事順調!個性だって、俺がインターン期間中に見てあげるから」
だから自分に自信持って。
俺は彼女に囁いて、未だ所在なくあげていた両の手を、恐る恐る彼女の背に回した。
そして、そっと力を込めて。
彼女の身体を抱きしめた。
「ちなみに、なんでそんなことになった?」
『……ホークスが』
「え?俺?」
『くれたジャケット、引っ張られて。カッとなった』
触ってほしくなかった、と。
俺の腕の中から聞こえてきた、彼女の言葉があまりにも。
「…会えて嬉しか」
あまりにも、期待させるから。
言ってしまいそうになる。
ずっと、会いたかった。
ずっと、会えるのを楽しみにしてた。
今日、関東に来たのは。
仕事があったわけでも何でもなくて。
ただ、キミに会いたくて。
ただ、キミの顔が見たくて。
『私も』
、俺は
『「ホークス」に会えて嬉しい』
(……あぁ、やっぱり)
また、期待して損した