第8章 落日
「シャチョーが炎の渦で閉じ込められた!」
「おいあれ、まずくないか!?」
「シャチョーが乾いちゃう!」
どうにか轟の炎を止めようと、戦線の後方支援に回っていた敵たちが、に背を向けた。
息切れしているは、一瞬ギャングオルカの方へ視線をやった後、彼女に背を向けた敵を狙い撃ちし始めた。
「あの子本当強いなぁ。イレイザーの動きと似てない?個人稽古でもつけてんの?」
「俺がいつ、あんなに宙を軽快に跳んだんだよ。全然似てないだろ」
「あ、やっぱり違うんだ?ガムいる?」
「いらん。今話しかけるな」
「え?」
観戦中。
絶え間なく、やかましく。
しつこくうるさく相澤にちょっかいをかけ続けていたMs.ジョーク。
相澤はそんな隣人を鬱陶しがり、常にイライラとはしながらも、今の今まで「話しかけるな」とは言ってこなかった。
しかし、ついにその言葉を口にした彼は、いつになく真剣な面持ちで、乱闘を続けている自校の生徒から視線を離すまいと、食い入るように戦いの行方を見守っている。
(あれ、急に仕事モード)
戦線には、一騎当千の強さを持つと、緑谷の他、続々と救助を終えた受験生たちが加勢に現れ続けている。
Ms.ジョークには、なぜ相澤がこの「乱戦がおさまりつつある最終局面」で今さら目を見張り始めたのかわからない。
「ゾロゾロと…!一斉掃射だ、全員かためたれ!」
「おい、士傑だ!」
「イナサを向かわせたハズだが…まだこんなに残っているとは」
「緑谷加勢する!」
「、援護するよー!」
どうみても、戦況は優勢。
勝ち確だ。
「…イレイザー、何を」
何を、見ているの?
Ms.ジョークが聞こうとした時だった。
争乱の最中
敵陣へ斬り込んでいたが、背後から放たれた味方の流れ弾に当たって、激しく転倒した。
足下に転がっているガレキに頭を打ち付けた彼女を心配するように、遠距離攻撃を放った張本人である他校の男子生徒が、彼女のもとへ駆け寄った。
「悪い、大丈夫か!?」
『…っ…大丈夫』
は、ズキリと痛む頭を片手で押さえて。
腰を屈めて、手を差し伸べてくれている彼の手を取った。
彼はホッとしたように。
柔らかい表情を浮かべて。
言った。