第8章 落日
『緑谷くん、ありがとう。私は戦線に向かうから降ろしてほしい』
「えっ。でも、さんのカルラは今救護所のシンボルになってるよね?その状態じゃ…!」
『救護所はもう、こんな戦線の近くに置いておけない。だからもうシンボルは降ろさなきゃいけない。カルラが地に落ちれば、「ここは避難区域として使えなくなった」と誰かが気付く』
もしもシンボルマークがなくなったことに気づかずに、遠方の受験生たちがこの救護所へ怪我人を集め続ければ、さらに戦線はキツくなる。
緑谷の右肩におとなしく担がれていた彼女はそう言い終わると、『カルラ!』と天に向かって声を発し、くるりと宙返りをして、緑谷の肩から飛び降りた。
彼女が地面に降り立ち、駆け出すと同時。
天高くで待機していた火の鳥が、カッ!とフィールド全域を照らすほどの強い光を放ち、急降下して、の頭の上に着地した。
≪呼んだな、≫
『アレを蹴散らす。手伝って』
≪何を燃やす?≫
『燃やさない。私の中へ』
≪承知した≫
が戦線へと身を投じた時には、予想通り。
連携プレーどころか、お互いの攻撃を打ち消しあってばかりいた轟と夜嵐がギャングオルカの超音波の餌食になり、地面の上に倒れ伏していた。
「もう一人来たぞ!!」
「ガチガチに固めたるわ!!」
意気込む仮想ヴィラン達。
しかし、一次試験で見せた最高速度で飛び回るに、ただでさえ視界が狭いハンデ用マスクの下から照準を合わせることは不可能に近い。
一人、また一人と。
部下がたった一人のヒーロー候補生の蹴りによってなぎ倒されていく惨状を見るに見かねて、ギャングオルカが、彼女の方へと歩きだした。
「さて…行くか」
その時だった。
意識を保ったまま、身体の自由が利かずに倒れていた轟の身体から、ものすごい熱量の炎が噴き出した。
ハッとしたギャングオルカだったが、彼が完全に轟の近くから距離を取るより一瞬早く、突風が足元を吹き抜けた。
上空へ向かって揺らめく轟の豪炎を、夜嵐が、つむじ風を生み出して下から掬い取り、そのまま。
業火の牢獄として、ギャングオルカを閉じ込めた。
(…身体は動かせずとも…!)
「…過ちに気付き、取り返さんとする…そういう足掻きは嫌いじゃない」