第8章 落日
炎が、の方へと向かっていく。
(おい、なんで…!)
、おまえどうしてそこに?
いつから?
あぁ、最悪だ。
間に合わない。
固まったセメントが重くて、助けに行けない。
こんなつもりじゃなかったのに。
こんなつもりじゃーーー
ーーーあああ焦凍!!!
ーーーごめんなさい焦凍!!ああなんてことを、あああなんてことを!!!
今の自分と同じように。
「こんなつもりじゃなかった」という言葉を繰り返し繰り返し。
顔に火傷を負った自分よりも
大きな声でわんわんと、子どものように泣きじゃくっていた母の声が、頭の中で反響した。
「さん!!」
俺の背後から跳びだした緑谷が、の懐へ一瞬で間合いを詰め、の足かせになっていた他校生まとめて抱きかかえて、戦線から跳び退いた。
額から汗を噴き出させている緑谷が、着地直前。
俺たち二人を睨んで、怒鳴っていった。
「なにを、してんだよ!!!」
その叱責を受けて、呆然とした俺は。
一瞬気が緩んだのか、なぜかこのタイミングになって、推薦入試の時に夜嵐のような風を使う個性の持ち主から話しかけられていたことを思い出した。
ーーーやったあ勝ったぞ!
ーーーあんたってエンデヴァーの子どもかなんか!?
ーーー凄いなあ!
その口ぶりが気に入らなくて。
そうだ、自分はその時。
黙れ、邪魔だ、と。
奴そっくりの言葉を返した。
エンデヴァーを否定する為だけに、生きていたくせに。
まるで、奴の生き写し。
(…見てなかったんだな、本当に)
夜嵐ほどうるさい奴はそういない。
けど今の今まで、まったく思い出せなかった。
は、こっちの戦いの邪魔をしないよう、しっかりと視界の中に映ってきていたはずなのに。
この試験中
ずっとのことを考えていたはずなのに
一瞬で見えなくなった。
(…過去も、血も)
忘れたままじゃいられねえんだな。