第8章 落日
先ほどの轟の提案を、夜嵐は
「おまえどっかいけよ、邪魔だから」
と、意訳して受け取ってしまった。
あながち、誤訳とも言い切れない荒々しい感情が胸の内で渦巻いている轟は、夜嵐から意識をそらそうと、彼の姿を視界から外した。
轟が腰を低く落とし、攻撃体勢に入ったのを見て、彼への対抗意識がめらめらと燃えてしまっている夜嵐は、周囲の空気を手元に凝縮させ、攻撃姿勢をとった。
轟と夜嵐両者の意識が自身へと戻ってきたことを確認し、ギャングオルカが部下たちに声をかけた。
「来る」
仮想敵の一団が身構えた直後。
前方に立ち塞がる轟が炎を生み出し、夜嵐が突風を発生させた。
二人の攻撃はギャングオルカに向かい、強力な攻撃となるーーーはずだった。
風に煽られ、炎が揺れる。
二人の攻撃は重なり合い、まるで違う方向へと飛び去って、掻き消えた。
「何で炎だ!熱で風が浮くんだよ!」
「さっき氷結を防がれたからだ。おまえが合わせてきたんじゃねぇのか?俺の炎だって風で飛ばされた」
「あんたが手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんな事するかよ」
「するね!!だってあんたはあの」
エンデヴァーの息子だ!!と怒鳴る夜嵐の声が、戦線のすぐ近く。
倒れた真堂を救助しようとしていたの耳まで届いた。
「さっき…から何なんだよ、おまえ」
口論を続けている二人からは、「ヒーロー候補」などと呼べるような雰囲気はカケラも感じられない。
「入試の時あんたを見て、あんたが誰かすぐにわかった!あんたは全く同じ目をしてた!!」
がっしりとして重い真堂の身体を持ち上げることに苦戦していたは、どうやら相性が悪いらしい二人のうち一人をこの場から離す方が賢明だと判断し、声をあげた。
「同じだと…」
『夜嵐くん!私と代わって!』
「どいつもこいつもふざけんなよ。俺はあいつじゃねぇ…!」
振り絞るような轟の一声。
はひどく苦しそうな彼の声を聴いて、一瞬。
呼吸を忘れた。
「俺はあんたら親子のヒーローだけはどーにも認めらんないんスよォーー以上!!!」
夜嵐が轟の悲痛な訴えに聞く耳を持たず、疾風を起こした。
同時に放っていた轟の炎熱攻撃が風に煽られ、また大きく方向がずれてしまった。