第1章 神話的な彼女
『あの手際の良さ、キミ、前科あるでしょう』
「盗むつもりなんてなかったんです、ちょっと触りたくなっただけです…!」
『現に何も言わずに持ち去ろうとした訳だから。他になに持って行こうとしたの』
「寮の外に家族がいるんです…!他にはなにも…!」
見ず知らずの女子に、変態気質のあるクラスメートが事情聴取されている。
まるで万引きGメンに見つかった窃盗犯のような供述を続ける峰田に向けられている女子達の視線は、ひどく冷たい。
『躊躇なく女性用の脱衣所に入ってきて、洗濯機開けるぐらいだから、もう常習犯だよね。女風呂覗いたりしたことない?』
「洗濯物入ってるとは思わなかったんだよ!もう既に入居者がいるなんて聞いてなかったんだし!女風呂覗いたりもしてねえよ!」
「しようとはしてました」
「切島うるっせー!」
「反省しろ」
耳郎がイヤホン=ジャックを峰田に突き刺し、人為的頭痛を引き起こしたところで、ストレス性の頭痛で眉間を押さえていた相澤が口火を切った。
「…最初に話しておくべきだった。まさか施設説明の途中で、欲望に駆られて女風呂に向かう馬鹿がいるとは思わなかったんでな」
リビングで執り行われていた峰田の公開処刑が終わり、少し離れた位置で様子を伺っていた生徒達も、相澤の周りへと集まってきた。
「先生!彼女は寮母さんということでしょうか!」
「いや、違うよ」
彼女、と飯田に呼ばれた一人の少女は、1年A組の生徒達と何ら変わらない年齢に見える。
クラスの視線を一身に集めても、一切笑いも物怖じもしない彼女は、相澤に促され、正体を明かした。
『です。このクラスに転入しました。皆さんより少し早くここに住んでいます』
彼女がカクリ、と頭を下げた。
直後、1年A組の生徒達は驚愕し、「ええぇええええ」という絶叫が寮内にこだました。
「「「転入!?」」」
「雄英に転入ってあるのか…」
「マジかわいい」
「この時期に?」
「ギャンかわ」
「上鳴くん、心の声がだだ漏れや」
リアクションを取る生徒達に、相澤が補足説明をするーーーかと思いきや。
「仲良くな。飯田、任せた」
「任されました!みんな、くんを温かく迎え入れよう!まずは自己紹介からだ!」
「今じゃない。自己紹介は施設案内の後だ。全員ついてこい」