第8章 落日
ーーー最終試験開始から10分足らず。
緑谷が仮想救助者を抱えて救護所へ駆け戻ると、そこにはすでに何十人もの救助者が運び込まれていた。
「もうこんなに…!?」
『緑谷くん!その子を見せて!』
「あっハイ!」
少し離れた位置で別の救助者のトリアージを行っていたが緑谷たちに気づき、瞬間移動の様な速さで飛び寄ってきた。
「はやい…!」
『引き継ぎを』
「あ、ごめん!頭怪我してます、出血多いけどそんなに深くないです。受けこたえはハッキリしてます!」
『了解。…うん、右のスペースへ案内して』
「きみ、こっちも頼む!」
『了解』
背後から別の受験者に呼ばれたは、半歩横にステップを踏んだ後振り返り、また一瞬で緑谷の視界から姿を消した。
そのタイミングと同時に、彼女が身体を移動させた位置から、ぶわっとした突風と強い発砲音、そしてチカっとした閃光が発生する。
(…え、かっちゃん?)
身体に感じた突風の熱と、音の振動、視界への刺激。
そのどれもこれもが、まるで幼馴染の個性を彷彿とさせる。
低い放物線状に宙を飛ぶの残像。
一次試験の時とは違い、胸を前へ投げ出すような体勢で宙を舞うの動きをまじまじと観察していた緑谷は、やんわりと自身の身体に熱を加えている頭上の光源を見上げて、気づいた。
「そうか、さんの個性は…!」
そこまで言いかけた時。
救護所のすぐ近くにあった、フィールドと観戦席を区切るための塀の一部が、爆発した。
「何だァ!?」
「危ない!」
立て続けに重なる大爆発。
地面が揺れ、がれきが崩れ。
身体の自由が奪われる。
ーーー大規模破壊が発生
すぐ近くの爆発地点から目をそらさず、身構えていた緑谷が目良の言葉を思い出した。
「皆さん!演習のシナリオーーー」
振り返り、他の受験生たちに向かって叫んだ時。
「対敵」
塀が崩れた土煙の中から。
低く、重厚な声が聞こえてきた。
徐々に晴れていく受験者たちの視界の一角。
そこへ、プロヒーロー ギャングオルカが、群を率いて現れた。