第8章 落日
「轟ちゃん、聞いてもいいかしら」
沿岸部ゾーンへと向かう道すがら。
轟とチームを組んでいる蛙吹から、急に質問が飛んできた。
「ちゃんと喧嘩してるの?」
「…してねぇ」
「ケロ、勘違いみたいね。ごめんなさい」
「…いや…喧嘩じゃねぇが、気まずくはなってる」
「気まずいの?」
「…なんとなく」
「そう…きっと楽しくお喋りできそうにないのね」
「…そんな感じだ」
楽しく、話ができない。
そんな表現に聞き覚えがある。
(…あぁ、そうか)
と出逢ったあの日の夜。
蛙吹は涙を溢れさせ、自分のやるせない心情を轟や緑谷に伝えてくれた。
ーーー色んな嫌な気持ちが溢れて
ーーー何て言ったらいいのかわからなくなって
蛙吹はその時、こんな気持ちだったのだろうか。
擦り切れた心がささくれ立って。
胸の奥で傷がうずいているような。
そんな居心地の悪さを抱え込みながら、あんなに穏やかに言葉を紡いでいた蛙吹は、きっと。
心根がやさしいのだろう。
対して自分は。
表面上
怒ってなどいないと言いながら
の言葉を遮った。
(…聞きたくねぇ)
ーーーキミが
もう、知りたくねぇんだ。
ーーーエンデヴァーの息子だから
どうしてが俺の傍にいてくれるのか
きっと
望む答えは返ってこない。
「私がみんなと仲直りできたのは、自己紹介もしないまま閉じこもってた私を、ちゃんが気にかけてくれたからよ。ちゃんはあんまり笑いはしないけれど、とってもとっても優しいの」
「…蛙吹、話が見えねぇ。試験中だ」
「えぇ、そうね。だから今言うの」
まっすぐ前だけを見ていた蛙吹は、その言葉の後、ようやく。
浮かない顔をしたまま走る轟の方へと視線を向けた。
「…試験中よ、轟ちゃん」
ハッとした轟は、ようやく。
苦言を呈してくれた級友の方へと顔を向けた。
蛙吹はケロケロ、と小さく笑った後、こうも言った。
「ちゃんと仲直りする方法は、試験が終わってから一緒に考えましょ」