第8章 落日
最終試験開始直後。
駆け出した他の受験生達を引き止めるように、が、展開後の通過者控え室上空にカルラを放った。
「うわっ、眩し!」
「なんだ?」
彼女の遥か頭上で動きを止めた火の鳥は、一瞬だけフラッシュを焚いたかのように激しい光を放出し、受験生全員の注意を引いた。
『ここを最終的な救護所に設定します!以上、救助へ向かってください!』
はっきりとした最終避難区域の指定。
は、100名もいる受験生が方々へ散った後からではスムーズに伝達できない重要事項のみを簡潔に伝えた。
スタートコールがかかった後も駆け出そうとしなかった彼女は既に、この最終試験が自己アピールの場ではなく、チームアップ力や即時対応力をみる試験だと気づいたようだった。
救護所に陽の光のような温かい光を降らせているカルラは、まるで彼女のトレードマーク。
すべての受験生たちは、天高く位置しているその光のおかげで、フィールド上のどこへ行っても救護所の方向を見失うことはないだろう。
「わかった、救護所の指揮を頼む!」
「とりあえず、一番近くの都市部ゾーンへ行こう!」
「なるべくチームで動くぞ!」
「ここまでを暫定危険区域に設定する!」
「いやもっと広くだ、テロだぞ!もっと被害広くなるかも」
まず、何が必要なのか。
まず、何を判断すればいいのか。
テキパキと適切な順序で物事を決めていく上級生達に対し、「救助活動」における実践的な経験が劣る下級生達の動きはどこかまだ幼く、彼らの顔には戸惑いが滲んでいる。
「消防や警察が到着するまでの間、その代わりを務める権限を行使し、スムーズに橋渡しを行えるよう最善を尽くす。ヒーローは人々を助けるため、あらゆる事をこなさなきゃならん」
右往左往している自分の受け持ち生達の姿を観察しながら、相澤が呟いた。
さすがにこの辺は…劣っちまうな、と続けた相澤の言葉を聞き、隣の観戦席に腰掛けていたMs.ジョークが不思議そうな顔をした。
「そう?あの子、一番先に動き出せてたんじゃない?イレイザーもやるねぇ!試験の場で、一番貢献できそうな被災ゾーンに向かわないなんて、なかなかわかっててもできないよ」
闊達に笑う同業者の声を聞き流しながら、相澤は一言。
「……教えたのは俺じゃねぇよ」
と、否定した。