第7章 エンデヴァーの息子さん
<次の試験でラストになります。皆さんにはこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます>
バイスタンダー、いわゆる、「その場に居合わせた者」。
最終試験の内容は、受験生を仮免許取得後のヒーローとして仮定した時、彼らがどれだけ適切な救助を行えるかを試すというものだった。
フィールド全域でスタンバイしている仮想要救助者。
彼らを適切に救助することが採点基準であり、演習終了時に合格基準を満たしていれば、見事最終試験合格となる。
晴れてヒーローのひよっこへと昇格だ。
<10分後に始めますので、トイレなど済ませておいてくださいねー>
和気藹々と、雄英高校の生徒達が会話を再開し始めたタイミングで、士傑高校の一団が雄英の方へと近づいてきた。
「爆豪くんよ。肉倉…糸目の男が君のところに来なかった?」
「あ?」
肉倉、という士傑生に戦いを挑まれたらしい爆豪は、その同門相手に堂々と。
一言、「ノした」と言い放った。
士傑生のリーダー的立場にあるらしい毛原は、特に爆豪を非難することなく、「やっぱり」と、静かに呟き、納得したようだった。
「あれは自分の価値基準を押しつける節があってね。何かと有名な君を見て暴走してしまった」
色々無礼を働いたと思う、と。
仲間を脱落させた相手に対し、頭を下げる彼を見て、切島が「人格者だ…」と呟いた。
「雄英とは、良い関係を築き上げていきたい。悪かったね」
「良い関係…!?」
「良い関係…」
一次試験で他校生に散々な扱いを受けた雄英の生徒達。
そう言われて、ハイそうですかと簡単に頷けるわけもなく、数名の生徒達が、彼の言葉をものすごい形相で繰り返す。
(…良い関係…)
頭の中でそう繰り返した轟は、「それでは」と勝手に話しかけてきて、勝手に立ち去ろうとする士傑生達の方へ歩み寄り、その一団に混ざっていた夜嵐に問いかけた。
「俺、なんかしたか?」
轟にだけは、良い関係どころか、視線すら合わせたくはないという態度で接してくる夜嵐イナサ。
知らぬ間に、彼に対して何か失礼があったのだろうか。
そう聞けば。
彼は嫌悪感を滲ませた視線で轟を見下ろし、ほホゥ、と低く不満げな声を発した。