第49章 選んだ道
黄昏色に染まる空を背にして。
ホークスを扉のところから見送った轟が、ベッドの横のパイプ椅子に腰掛けた。
自分より、一回り歳上に見えるをまじまじと見つめて。
何かを確かめるように、彼女の片手にそっと触れた。
彼女の小指に引っ掛けた轟の指先を、が迎えにきて、二人手を繋いだ。
しっかりと繋がれたその手を見つめて。
轟が呟いた。
「…夢みたいだ」
大人になった彼女を見つめる。
はその視線を受けて、微笑んだ。
『10歳以上違ってる』
「…あぁ、そうだな」
でも、と。
轟はの瞳をじっと見つめて、言った。
「すぐ追いつく」
『…身長は、轟くんの方が高いしね』
「あぁ。何も変わらない。…いや…変わったのか」
轟が繋がれていない片方の手を、彼女の頬に当てた。
彼女の綺麗な瞳を見つめて。
コツリ、と。
自身の額を彼女の額にくっつけた。
「……」
『なぁに』
「名前で呼んでもいいか」
『うん』
「…俺のことも、名前がいい」
『うん』
「それから」
『うん』
「俺以外の奴に、キス、されたり、抱きしめられたり。もっと嫌そうな顔してくれ」
『うん?…うん、わかった』
「……いや、しなくていい」
『うん。轟くん』
「…焦凍」
『焦凍くん、あのね。私、キミと出会う前……』
吐息がかかる距離で見つめ合う。
轟は彼女の言葉を少しだけ聞いて。
この告白を遮る様に。
に言った。
「キスしてもいいか」
まるで。
そんな些細なことは、関係ないというように。
彼は表情を動かさず、言った。
彼女はその言葉を聞いて。
そっと瞼を閉じた。
轟は彼女の表情を見つめて。
しばらく、その様子に見惚れていた。
『………あの』
「悪い、見てた」
『結構恥ずかしいよ』
「綺麗だと思って」
お互い、特別な相手ができることなど初めてのことで。
どう触れていいのか、タイミングも何もよくわからなかった。
轟がもう一度、彼女の頬に手を置いた。
眠る様に瞼を下す彼女の表情が。
やはり美しく思えて仕方がなくて。
その唇に、そっと。
自分の唇を重ねた。
氷の様に冷たかった彼女の身体が。
今ここに、熱を帯びて存在している。
大嫌いで仕方がない自分のことを。
受け入れてくれた人がいる。