第46章 荼毘に伏す
いってきます、と。
笑って出て行ったあいつは、戻ってこなかった。
何日経っても。
何週間経っても。
何ヶ月待っても。
あいつは戻らなかった。
出先で何かあったことは明白だった。
仕事をしくじったか、何か面倒ごとに巻き込まれたか。
でもきっと、大人顔負けの喧嘩強さを誇っていたあいつのことだから、この世界のどこかで生きているような気はしてた。
「おや?今日は荼毘と一緒じゃないんだな」
「俺があいつの仕事を引き継ぐ」
「お前が代わりに?名前は」
「あぁ」
「今日からーーー俺が「荼毘」だ。良い仕事、紹介してくれブローカー」
博多へ行く、と言っていた。
だから可能性にかけて、博多を彷徨っていた。
思った通り、またお前と再会した。
でもお前は、知らない名前で生きていて。
俺のことをまるで忘れたようだった。
「幼馴染なんだ。だから絶対にお前たちとは関わらせない」
酷い話だった。
俺は何年も何年も。
憎しみの炎を燃やしながら、それでも生きながらえて、お前を探してたのに。
忘れたってなんだよ。
俺の名前すら忘れたのかよ。
俺たちの出会いすら。
俺たちのあの家の暮らしすら。
全部忘れたって言うのかよ。
そんなの、アリかよ。
なぁ、
でも、俺、正直なところ
俺、どっちだっていいんだよ
お前が、ヒーローの味方だろうが
俺らの味方だろうが、お前の立ち位置なんて昔からどうだって良くて
ただ、側にいてほしいと思ってた。
裏切られたってなんだっていいんだ。
お前の好きに生きればいい。
生きていてくれれば。
それだけでよかった。
なのに。
「ーーー勝手に死んだりすんなよな…!」
氷のように冷たくなっていく彼女の身体を、力一杯抱きしめる。
山荘の至る所から爆破音と戦闘音が響いていた。
声にならない声で、荼毘が泣き叫ぶ。
彼の枯れた涙腺から、涙が溢れることはなく。
血涙が溢れ出し。
彼女の頬を赤く染めた。