第46章 荼毘に伏す
自分より、7.8歳は歳下に見えたあいつは。
俺よりも随分大人びて見えた。
彼女は、定期的に。
どこからか食べ物を持ってきて。
死んだように毎日眠ってばかりの俺の世話を焼く。
(ーーー。)
死ぬつもりもないし。
生きるつもりもない。
抜け殻の俺と、数ヶ月、そんな生活をし続けて。
あいつは言った。
『……キミ、靴は?』
お互い顔を見ないまま。
与えられた食事を摂っていたある日。
あいつが言った。
『……欲しいなら、買ってくるけど。どうする』
「………」
目覚めた施設から、裸足で駆け出してきたから。
俺は靴を持っていなかった。
その話をされて、数ヶ月近く外へ出ていなかったことを知り、少しだけ思考を巡らせた。
「……ほしい」
彼女は。
ただ一言、うん、と頷いた。
それだけの会話を終えて。
また一日が過ぎていく。
次の日。
あいつはまた話しかけてきた。
『サイズを聞いてなかった』
「…知らねぇ」
『……見にいく?』
「………。」
俺は考えるのがめんどくさくて。
言われるままに頷いた。
次の日。
アイツはデカすぎる、誰のものかもわからない靴を拾ってきて、一時的に俺に履くように指示した。
『ブローカーのところまで、行く靴がない。一旦履いて』
何もかもがどうでもよくて。
言われるままに従った。
あいつに靴を与えてもらって。
たまに。
あいつが帰ってくる前に、外を散歩するようになった。
『おはよう』
「…………」
『行ってくる』
「………どこへ?」
『仕事』
「………」
『ただいま』
ほんの、少しずつ。
僅かながらに、あいつと話すようになった。
『おはよう』
「……あぁ…」
『行ってきます』
「………あぁ」
『ただいま』
「………あぁ」
会話なんて呼べる程度のものでは無かったけれど。
あいつは、なんの文句も言ってこなかった。
「……お前」
いつものルーティーンを外れて。
あいつに問いかけたのは、俺の方からだ。
「……お前、名前は」
『ーーー……荼毘。キミは?』