第45章 イカロスの翼
「信じてあげねぇと」
「可哀想だって、思ったから…!」
「誰かが、誰かが…信じて、あげねえと」
「可哀想だって!!!」
彼と私の出会いを覚えている。
真冬の大晦日。
贅沢な食事なんて夢のまた夢。
それでもある程度の食事を買った、帰り道。
昔の家があった場所を通りがかった。
紙袋を頭に被せたホームレスがそこに横たわっていた。
県内で有名なホームレスの溜まり場、高架下。
みんなこの場で冬を越すことは難しいと判断して立ち退いたのに、彼だけはそこにいた。
(…行き倒れ)
その夜は例年よりも冷え込んで、吹雪になる予定だった。
雪の上を引きずって、ひとまず。
暖炉の前に転がした。
寝苦しそうだと思ったから袋を取ったけど、彼はその時にはもう既に心に傷を負っていた。
「あぁッ!!包まなきゃ!裂けちまう!!!」
袋を返すと、彼はようやく落ち着いて、思考できるようになった。
「……坊主、ここはどこだ」
『…もう少し寝ていなよ』
薪を暖炉にくべながら、凍える彼に声をかけた。
分倍河原 仁は。
「坊主、ありがとうな……ありがとう…!!」
泥に塗れた子どもに対して、しっかりと。
感謝を伝えられる大人だった。
貧乏な正月を2人で過ごして。
数ヶ月の間、2人で暮らしていた。
乞食のような服装の私が、2人分の食べ物を買いに行くと、よく、近所で流行っていたスリの窃盗犯ではないかと陰口を叩かれた。
私のお金の出所も知らないのに。
彼だけは私を信じてくれた。
「お前、綺麗な目してるもんな。そんなことする奴じゃねぇってわかってるぜ!」
分倍河原さんは。
そう言っていたのに、ある日、突然。
私の前からいなくなった。