第45章 イカロスの翼
病院の一室で、彼に問いかけた。
どうして毎日毎日会いにきてくれるのかと。
彼は言った。
「どうしてって…心配やし、それに…君と友達になりたくて」
他にいくらでも。
キミなら友達はできるだろう。
そう言った私に、彼は手に持っていた本を見せてきた。
「君の個性、かっこよか。目も、炎が瞳の中で燃えてて…まるで神話の登場人物みたいやけん」
彼が見せてきたのは、神話の話がたくさん載った童話の本だった。
受け取って、いくつかページをめくる私に、彼は続けて言った。
「暇つぶしになるかと思って。気に入らんかったら言うて。また新しいの持ってくる」
その本の中の、1ページ。
私は強く興味を惹かれて。
挿し絵を見つめた。
『これ…』
「それ?何の話……あぁ、これ…有名なやつ。何だっけ……蝋で出来た翼で、空を飛ぶんよ。でも…」
『……イ……イカ………読めない』
「……もしかして、文字、苦手?俺が読む」
神話の登場人物イカロスは、父が残した蜜蝋で出来た翼を手に入れ、迷宮から脱出を果たす。
太陽に近づきすぎてはいけなかったのに、彼は慢心の末、太陽に近づきすぎて、翼を失い、地に落ちて命を落とす。
『…これ神話?』
「うん、神話」
『これに私が似てるの?』
「ち、ちが…!この話じゃなくて、ほら、もっと女神とか色々登場人物いるから!綺麗って言いたかっただけやけん!」
『……ありがとう』
「………あ。…………いや……」
『本も、ありがとう。けど私、文字が読めないみたい』
「……じゃあ、明日からも俺が一緒に読むよ」
嫌じゃなかったら、だけど。
そう言う彼の翼を見つめて。
私は問いかけた。
『キミの翼は、溶けるっていうより燃えそうだね』
「え?」
燃やしてみてもいい?
そう聞く私に、君は言った。
「あはは、何言ってるの」
「人を」
「燃やしてはいけないよ」