第44章 君は友達
寒空の下。
バルコニーの端。
毛布に二人の片手を隠して、手を繋いだ。
きっと、ここなら。
誰からも見つけられることはないだろう。
誰からも邪魔されることはないだろう。
「…寒くなったら、教えてくれ」
『うん』
小さな小さな子どものように。
仲の良い友達同士のように、手を繋いでいた。
轟が様子を伺うように、少しだけ指を解いて。
恋人同士のように手を繋ぎ直した。
胸が燃えるように熱い。
頭の先まで、自分の心臓の鼓動の音が響いている。
彼女の顔が見たいけれど。
恥ずかしくて見られなかった。
『エンデヴァーと話してたこと、何の話だって聞かないの?』
不意に彼女がそう言った。
「……聞いたら、答えてくれると思ってない」
『そうだよね。さすがだね』
彼女が悪気なくそう言った。
「……」
『ん?』
「……あの解放思想の本、好きなのか」
『難しくてよくわからない。轟くん、読んでみたんだね』
「お前が好きな本だと思ったから」
そうなんだ、数ページも読み終わっていないよ、と。
彼女がカラカラと笑った。
「ホークスが読んでるから、読んでたのか」
『いや?私が先』
「…そうか」
『読んだ?』
「よくわからなかった」
『だよねぇ』
そりゃそうだ、と彼女は笑い。
自分を見つめてくる轟と視線を合わせた。
「…」
『なぁに』
「急にいなくなったりしないよな?」
轟はに問いかけた。
風が彼女の髪を攫って、駆け抜ける。
は真剣な表情のまま、轟の目を見据えた。
綿雪がはらはらと舞い落ちて、二人の肩に降り積もり始めた。
返事を待つ間は、ほんの数秒間。
けれど、永遠に時が止まったかのように、轟には感じられた。
『……うん。頑張るよ』
いなくなりはしない、とは
彼女は言ってくれなかった。