第39章 何も知らずに
明らかに鬱陶しがられてしまっている。
けれど。
早く伝えておかなければ、修復不可能になってしまう気がしていた。
「あのさ、俺のこと燃やしていいよ」
電話口に、沈黙が流れた。
冗談めいて聞こえてしまっただろうか。
緊張して、嫌に喉が渇く。
「だから、もう一回考えてくれないかな」
『…燃やせるわけないでしょう』
「でも燃やしたいんだよね?いいよ、俺の剛翼程度ならいくらでも。キミの言うとおり、燃やしても燃やしても生えてくるし。それでキミが生きやすくなるのなら」
それで、キミが
こちら側に帰ってきてくれるのなら
「だから…」
「ーーー…遠ざけたりせんで?さみしかよ」
長い沈黙の後。
彼女がようやく口をきく気になってくれた。
『監視されてるのに、どうして電話なんて』
「その場で監視されてるのと、電話聞き耳立てられてるのとじゃ、だいぶ違うでしょ?それに、こっちでのキミは人気者過ぎていつも誰かと一緒にいるし」
『………』
「もう一回考えてくれる気になった?」
『…まだ言ってる』
「そりゃ何度でも言うよ。ねぇ、ちゃんと考えておいてね」
敵側にキミがいる限り。
フェニックスを排除するという俺の任務を果たさなければいけない。
そんなことにはなりたくないんだ。
『……』
「あっ、そういえばインターン、無事スライディンのところに決まった?インターン期間中、こっちにいられそう?」
『……エンデヴァーのところに行こうかと思ってる』
「えっ?」
突然出てきたNo.1ヒーローの名前。
俺は甘いコーヒーを飲みながら、素っ頓狂な声を発してしまった。
「…どういう経緯?」
『轟くんが、一緒に来ないかって』
「行くの?」
『…うん』
なんでまた、という俺の問いかけに、彼女は無言を貫いた。
フェニックスが、エンデヴァーのもとへ。
そんなことを頭の中で考えつつ、呟いた。
心境の変化でもあったのなら、それはとても喜ばしい知らせだったが。
異能解放軍一翼のホークスとしては。
言わざるを得なかった。
「それは…血を見る大晦日になりそうだ」