第38章 夢の一端
『ファーストペンギンって聞いたことある?』
「…群れの中で、狩りのために一番先に海に飛び込むペンギンのことだろ」
『そう。大抵のファーストペンギンは食べられる。食べられるのを見て、他のペンギン達は狩り場を変える。食べられなかったのを見たら、他のペンギン達も同じ狩り場に飛び込んでいく』
酷く合理的だよね、と。
は遠くにいる担任の背を横目で見て、また水槽で泳ぐペンギンを眺めた。
『……食べられるのは嫌だなぁ』
「水族館のペンギンは、幸せだと思うか」
『んー……エサは命の危険なしに与えられるだろうけどね』
狭い世界で、行動を制限されるのは。
とても苦痛なんじゃないのかな、と。
彼女は言った。
「…。おまえ、どうして雄英に来たんだ」
ずっと聞きたかったその質問。
問いかけると、彼女は真顔になって俺を見た。
『どうしてって?』
「おまえ、何なんだ。どうしてここにいる」
『……必要があったからここにいる』
「……必要があった?今は?」
『今はもうないね。ここにいる意味は』
全くない。
彼女がそんなことを言うから、俺は焦って言い返した。
「ヒーローになりたいんじゃないのか、お前も」
彼女は歩きながら、別の水槽を眺めて。
呟くように答えた。
俺を見ることなく。
背中だけで答えた。
『ならなきゃいけないと思ってた』
全てが過去の話のように。
彼女が話すから。
「……俺は…っ」
「お前と居る、今がすごく大切だ」
「だから、意味はないなんて言うなよ…!」
は振り返って、俺に悲しげな笑みを向けると
ただ一言謝ってきた。
『ーーー……ごめんね』