第38章 夢の一端
水族館へ行った。
彼女と二人。
結局、クラスメイトたちに声をかけることはせず、二人で外出許可を出した。
毎週毎週出かけているはずなのに、彼女は「外出願」の書き方がよくわからないようだった。
「まさか、いつも無断で外出してたのか?」
『いやいや、ちゃんと許可取ってるよ…!』
「…その反応、怪しいな。今は色々危ねぇんだから、しっかりしろよ」
敵に会ったらどうする、と。
問いかけたら、彼女は困った顔をした。
『……外出届、早く出しに行こうよ』
二人揃って、同じ行き先を書いた外出願を受け取って。
担任は、目を丸くした。
「…二人で、ここへ?」
「はい。行ってもいいですか」
「…いいけど、悪いな。そういう感じの外出だとしても、必ず教員が一人、ボディガードとしてついて行くことになってる」
担任が言った「そういう感じ」という言葉が何を指しているのかわからないほど、俺は意識していないわけではなかった。
けれど、彼女は言った。
『そういう感じってなんですか』
「「…………。」」
轟、すまん、と謝られて。
俺は、いえ、別にいつものことなんで、と返答した。
結局、水族館への引率は、精一杯の気を利かせてくれたのか、相澤先生と、11月末から雄英で生活しているエリちゃんだった。
一定の距離を保ちながら、エリちゃんと二人で来たかのように振舞ってくれる相澤先生の態度がありがたかった。
『轟くん、初めての水族館どう?』
「……魚、多いな」
『そのための施設だからね』
初めての水族館というよりは。
初めてのとのデートに、俺は気分が高揚していた。
「…どんな魚が好きなんだ」
『ブリとかハマチとか』
「寿司ネタだろそれ」
『鉄火とかサバとか』
「巻物なら良いとかじゃない」
はしゃいで見えるの笑顔を見て、俺だけが楽しんでいるわけじゃないんだと、ホッとした。
『ペンギンが好き』
「…それ魚か。でも、水族館で見れるんだな」