第37章 かごめかごめ
目を覚ますと、暗い部屋のベッドの上だった。
静かな寝息が隣から聞こえてくる。
を抱き抱えるように眠る荼毘の寝顔を見て、はぼんやりと考えた。
(…今、何時だろう)
身体を上半身だけ起こそうとしたら、荼毘が腕に力を込めてをまたベッドに引き倒した。
「もう少しで朝だ。寝てろ」
『……帰らないと』
「いいから」
がっしりとした腕に抱えられ、が押さえつけられる。
荼毘が自分の身を彼女に近づけて、吐息がかかる距離でため息をついた。
「暴れてたこと、覚えてんのか」
『………』
が口を開いて。
何の言葉も発さずに、荼毘に背を向けた。
身をよじって、距離を取ろうとする彼女の腰に手を回して、荼毘が彼女の背に自分の体を重ねた。
「逃げんなよ…お前、思い出しつつあるんだろ。トガに対してはムダに優しいもんな?」
耳元で囁く荼毘の声は、寝起きのためか、まだ少し怠さを孕んでいる。
何も答えず、が目を瞑る。
昔と同じように。
小さく小さく丸まって、背を向けて眠る彼女の姿勢を見て。
荼毘がの後ろ髪に顔を埋めながら。
問いかけた。
「なァ……俺のことはいつになったら思い出してくれる?」
彼女が目を見開き、振り返った。
荼毘はジッとその彼女の瞳の白炎を見つめて。
囁いた。
「俺は…お前のこと、忘れたりなんかしなかったぜ」
荼毘が彼女の腰から手を離し、の顎に手を置いた。
親指で彼女の唇をなぞり。
誘うような瞳で囁いた。
「お前は急に俺の前から姿を消した…寂しかったよ。俺はお前をずっと探してたのに…お前は何だ、忘れたって?あんまりじゃないか。勝手に人のこと過去にしてんなよ、忘れてんじゃねぇよ…」
おまえ、ほんと。
見ない間に。
「…綺麗になったよなァ…」
荼毘はただジッと食い入るようにの瞳を覗き込む。
彼の視線が彼女の唇にとまり。
あと数センチで触れられる距離を。
近づいて、唇を重ねようとした。