第37章 かごめかごめ
山荘へ出入りするようになって。
毎日のように夢を見る。
毎日のように思い出す。
物心ついた時から、親がいなかった。
いたい、熱い、やめてと叫ぶ母親らしき女性の声は覚えていても声だけで、顔が全く思い出せやしない理由に心当たりがあった。
「お前は捨てられてたんだよ。俺たちが拾って、育てた。でも親がいなくたって寂しくない、ここがお前の家だからな」
個性の発現は齢4歳とされている。
けれど、稀に発光する赤子が生まれるなど、認知され始めた個性学には諸説あり、確実性は未だ皆無の学問とも言える。
ホームレスが集まる高架下。
私の家はそこにあった。
ダンボールとブルーシート、軋む木材に囲まれて。
家とも呼べない囲いの中で、泥に塗れて生きていた。
「かごめちゃん、あーそぼ」
そんな私にも友達がいた。
彼女は、よく学校の友達にいじめられて、高架下でひっそりと泣いていた女の子。
初めは話しかけるつもりなんてなかったけど。
あまりに毎日毎日泣いているから、声をかけた。
「あのね、血がね綺麗なスズメさんがいたの」
「カァイイと思ってね、見せたの」
「そしたら仲間はずれにされちゃった」
至極、当たり前とも言える彼女の身の上話。
でも、歳の近い女の子と話すのが新鮮で。
彼女と会話をし続けた。
「血が好きなの。チウチウしたいの」
「でもダメなの」
「普通ってなに?どうしたらいいの」
遠くの公園から聞こえてくる夕方5時のチャイムが鳴ると。
彼女は帰り支度を始める。
「帰らなきゃ…帰りたくない…」
しなければ、そうでなければ、と。
がんじがらめな彼女の言葉を聞いていて。
窮屈そうだなと思った。
『…血がほしいなら、あげるよ』
ヒミコちゃんは、それを聞いて。
泣きそうになりながら喜んだ。
「ありがとう、かごめちゃん!」
遠くの公園で。
かごめかごめのチャイムが鳴っていた。
名前を教えて、とヒミコちゃんが言うから。
咄嗟に耳に入ってきたチャイムの音を頼りに、自分で自分に名前をつけたはずなのに。
どうして忘れていられたんだろう。